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「南米といえばフェミニズム」第8回:グローバルサウスの声を聴こう【後半】(岩間香純) | book | エトセトラブックス / フェミニズムにかかわる様々な本を届ける出版社

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「南米といえばフェミニズム」第8回:グローバルサウスの声を聴こう【後半】(岩間香純)

2022/8/14

「南米」「ラテンアメリカ」と聞いて思い浮かべるのは? 「危険」「治安」「発展途上」などなど、ステレオタイプが今でもひとり歩きしているのではないだろうか。南米エクアドルに住むフェミニストが、自分と南米とフェミニズムを考え、語り、現地からレポートする、悪しきイメージを蹴散らかす連載エッセイ。著者が住むエクアドルを含む南側の国々「グローバル・サウス」に「北側」が押し付ける「発展」「成長」そして「幸福」の形、そこから見える問題を突きつける、8月9日「世界の先住民の国際デー」に合わせたテーマ後半です。

 

この連載は二回に分けてお届けしているため、前半はこちらでご覧ください。

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南米で暮らし始めて学んだことの一つは、「発展」という言葉を軽々しく使ってはならないということである。

例のインタビュー内で発言された「カーボンバジェットをより多く南側に配分すれば[…]南側の人々はより幸福になるし、生活状況は改善する。」というご提案と、「スローダウンとは、まさに先進国によるグローバル・サウスのためのスローダウンです。」という発言には、パターナリズムの鏡とも言える態度を感じる。

せっかくの提案を全面否定するのも悪い気がするが、私が見てきたエクアドルの環境問題や気候変動問題運動や活動家は、誰一人としてカーボンバジェットを南側により多く配分しろなどと言っていない。エクアドルは小さな国ではあるが、国土面積の34%であるアマゾン地域にはたくさんの自然資源、特に石油がある。活動家たちやそこに暮らす先住民はカーボンバジェット云々以前に「もう掘るな!」と言っている。掘るたびに周辺の水は汚染され、それを生活水として利用している先住民族の中には皮膚病などを発症しているコミュニティーもある。カーボンバジェットを南側に配分したところで石油を所有する南米諸国で企業とアマゾンの先住民の争いは終わらない。


政府によって油田を中心にブロック分けされたサパラ民族が暮らすアマゾン地域
 

そもそも「幸福」や「生活状況の改善」も、結局のところ、グローバルノースに住んで欧米で勉強した日本人の感覚や基準で語っているのではないか。「今のあなたの生活レベルは低いので、私たち”先進国”が思う文化的なレベルに引き上げるためにスローダウンしてあげるから発展してね」と言って相手が「ありがたや」と感謝してくるとでも思っているのだろうか。

仮にカーボンバジェットを南側に配分する計画が進んだところで、結局は南側の都市部に住む住民が「幸福」なり「生活状況の改善」を得るのであって、一番差別されている地域や民族にまでその「幸福と生活の改善」が行き届くとは、現状を見ていれば想像できない。

「脱成長」という概念も、結局は「成長」という概念を軸にした”先進国”の発想である。「成長」や「発展」に取って代わる概念は”先進国”の想像力では生み出せない。

グローバルサウスの先住民や生活者は、その成長という概念のオルタナティブを持っているかもしれない。ノース的な「成長」が環境破壊問題や気候変動と直結しているのも、それらの問題の影響を一番受けているサウスの住民ほど理解している。それが資本主義、格差、人種差別と繋がることも、ここではずっと前から議論されている。成長とは両刃の剣である。しかし南側の声、経験、知恵は北側にこれまで無視されてきた。そうしているうちに北側の知識人が答えを見つけたかのように「脱成長」を語り始める。これはもう歴史上何度も繰り返されてきた光景である。

”先進国”率いるグローバルノースの経験と知識で創造できる「発展」や「成長」は社会格差を是正できないどころか格差を必然としている。持続可能でもない。何より、その「発展/成長」はもうすでに失敗している。失敗しているから地球は今この有り様なのだ。もう発展なんて語れる立場にいない。ノース出身の私たちはまずそれを肝に銘じよう。

単に「グローバルサウスの人たちの自己決定権を尊重しよう」と言う話でもない。決定する権利はもちろん、グローバルサウスにはノースにない知恵と知識を持った上で決断や判断ができることを認知しよう。そして、これまでノースが独断で「発展」や「成長」のために世界の仕組みを決めてきた様に、今度はサウス側の(政府や企業ではなく)人々、特に先住民の知恵と知識に任せてみるのはどうだろうか。

今まではノースの知識人や権力者がサウスに向かって「あなたたちにとって何がいいのか、必要かは私たちの方がよくわかっている」と言って現代まであらゆる形の植民地支配を正当化してきた。でもその発展も成長も失敗に終わった今、世界にとって何が必要かをサウスの人々に教えてもらおう。そこにはノース側が想像もできなかった形の「幸福」があるのかもしれない。この地球規模の危機的状況を抜け出すのにまだ間に合う方法があるならば、その答えはノースの学者が一生懸命知恵を絞って見つけ出すのを待つより、もう何十年、何百年と実践してきたグローバルサウスの人々や先住民に教えてもらったほうが得策であろう。

8月9日は「世界の先住民の国際デー(International Day of the World’s Indigenous Peoples)」である。最後に、エクアドルのアマゾンのサラヤク出身の先住民アクティビスト、ニナ・グアリンガさんのインスタグラムに投稿された言葉を残したい。

アマゾンを脅かす密かな危険があります。今回は石油や採掘や森林伐採の話をしているのではありません。子供たちの精神の植民地支配の話です。植民地的な教育システムは私たちの言語、文化、コスモヴィジョンを破壊し、大地との共生の知恵を奪う。私たち先住民のアイデンティティーを「発展」の名の下に破壊するのです。
「発展の」意味を問いましょう。その「発展」は私たちを絶滅の危機に追い込んだのに、まだなおその道を行くのですか?人々は考えと行動の脱植民地化を始めるべきです。先代の知恵を大事にし、数百年と受け継がれた先住民の生活の実践の価値を認める時です。

 
岩間香純(いわま・かすみ)
アーティスト、日英翻訳家(たまに西語も)。日米の間で育った二文化から生まれるハイブリッドな視点でフェミニズムやアイデンティティなどのテーマを基にメディアを限定せず制作している。アメリカの美術大学を卒業後しばらく日本で生活し、2017年に南米エクアドルに移住。2021年にエクアドルの大学院を卒業。現在も首都であるキト在住。

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