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2022/11/26
2022年11月30日発売『エトセトラ Vol.8』より、特集「アイドル、労働、リップ」特集編集の和田彩花さんによる「特集のはじめに」を公開します。それぞれにとっての「アイドル」を考える、切実で多様な声を集めた特集号です。刊行までもうしばらくお待ちください。
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10歳からアイドルの研修生をはじめ、16歳から25歳までアイドルグループで活動した。
アイドルになりたいという気持ちはそれほど強くなかったため、特に研修期間は習い事の延長線上で楽しんでいた。
15歳でアイドルグループとしてデビューしてから、駅やコンビニの雑誌で自分たちを見かけるようになった。メンバーが卒業すると、大人の(当時10代半ばだった私から見て大人だった)ファンの方が目の前で泣いていた。そういった出来事から社会に出たこと、影響力というものを知った。
その後、グループはどん底といわれる時期が続いた。日本中のライブハウスを回った。お客さんが集まらず、ファンの方が会場を楽しそうに走り回っていた姿を思い出す。
それまで大きな会場でコンサートをしたいと夢を語ったけれど、ライブハウスを巡ってからは数とか大きさでは決められない価値を知った。それから、初めて自分の心がおかしくなってしまう気がしたけど、幼い頃から聞かされていた「何があってもステージに立つ」という根性論で乗り越えた。
20歳前後、どうしたら大人になれるかを考えていた。前髪を伸ばした。周囲は、当たり前のように理想の恋愛や結婚観を語り始めたけど、私は当たり前のように恋愛や結婚に興味がなかった。そして、なぜ恋愛の歌(それも多くは異性に向けられた)を歌わなければいけないのかわからなかった。
グループ名が変わった。人も入れ替わった。ここまで結構頑張ったと思っていたけれど、あるとき私の根性論が間違っていると言われた。10代から周囲に言われるまま根性論を叩き込んできたのに、私が責められた。よくわからなくなってしまって、もう一つの居場所であった美術の世界とアイドルの世界を見比べてみた。ああ、いろいろ間違っていた。
最初はうまく言葉にできなかったので、与謝野晶子さんの『「女らしさ」とは何か』をスタッフの方に送って心のモヤモヤを代弁してもらった。そうこうしているうちに心が壊れて、人の痛みを知った。そうなってもなお、根性論から抜け出せず助けを求められなかったので自分の首を締め続けるしかなかった。
アイドルグループを卒業して、行きすぎてしまった思考をリセットした。ときどき、消化できなかった出来事を書き出しながら、痛みに向き合っていくようにもなった。
ここまでの出来事は、ファンを敵に回すためでも、何かの団体の広告塔になっているわけでもない私の悩みの全てであり、避けられなかった現実だ。
今回、アイドルが抱える問題について様々な立場から関心を持ち続けてくれた皆さまの力をお借りしながら、アイドルという職業について考える場をいただいた。
アイドルについて考え始めると、いくつもの偏見や差別が重なること、はっきりと答えを出せない場面にも直面し、秩序を保ったステージで輝くアイドルの姿との対比に何度かくらくらした。
まずは、これまで考えることとされてこなかったアイドルにまつわる様々な出来事を知ってほしい。それらを踏まえた上で、もしよかったら一緒にアイドルの未来に向けて一歩を踏み出してくれたら嬉しい。