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「女の知恵は針の先」第22回:生き延びて、また会おうね(フェミニスト手芸グループ山姥)

2023/6/15

“政治的な”制作活動をしているフェミニスト手芸グループ山姥。この連載は、彼女たちが毎日生活したり活動したり、編んだり縫ったりしながら考えたあれこれの記録です。2年続いた山姥の連載は、今回で最終回です。また会おうね!

 
先日、韓国と日本のミュージカル俳優のコンサート、『Musical Meets Symphony 2023 “DIVA”』に行ってきました。かんなです。

音響や劇場もよく(ここがミュージカルオタクにはマジ大事)、ずーっとクライマックスみたいな選曲で、しかも全員歌が死ぬほど上手いという、近年稀にみるすばらしいコンサートだったけれども、なかでも『For good』のデュエットよ……。思い出しただけでも泣いちゃう。

これは『Wickedウィキッド』というミュージカル(秋に四季で上演予定。チケットくれ)の中の1曲で、それまで反目しあっていたグリンダとエルファバという主役の2人がお互いの力や影響を認め、評価しあいながら、そして同時に永遠の別れを選ぶという歌である。
みんな大好きオリジナルキャスト2人クリスティン・チェノウェスとイディナ・メンゼルの『For good』

グリンダとエルファバよろしく、人間(魔女)を30年近くもやってると、当然、人との付き合いも距離ができたり、仲良くなったりということを繰り返している。特にここ何年か、山姥の活動を始めてみてからは、改めてそういう人間同士の付き合いの難しさを感じている気がする。

当然だけど、みんな生活状況も成育歴もそれぞれで、そして人間は変わっていくので、その上で一緒にやってみたり、やめてみたり、また出会い直したりする。離れざるをえなかった人たちにも、それぞれの理由があると思う。(自分の側にその人がそうせざるをえなかった要因があるかもしれない)

出産や、介護などケア労働や、仕事の状況、金銭的な問題も大きい。賃労働や家事労働をしながら、フェミニズムの運動をどうしたら無理なく、続けていけるのか。一緒に運動をしていたけれども、今ここにはいなくなってしまった、いたはずの人のことを思い出す。

「政治的な手芸部」のプロジェクトは5年目に入った。

この活動をやっていても、まあ悲喜こもごもである。いちばん悲しみが深いのは、申し込んだ後、何の連絡もなく参加がないとき。それぞれに事情はあると頭ではわかってはいるが、毎年ショックである。そして、実務的にも空いたマスは代わりの誰かを探さねばならないので、思いつく限り、知り合いになんとか無理をお願いしている。今年は初めて空きがなく埋まった。

うれしかったのは、ここ最近の入管法のスタンディングで、バナーを持つのを手伝ってもらえることが続いたこと。今年のバナーは2枚で1組なので、1人で路上に出た時はどうしても誰かの手を借りるしかない。(もちろん、どうしようもない時は路上や植木に広げることもある)

だから、「一緒に持ちましょうか」と言ってもらえた時、本当に何と言っていいかわからないほど、うれしい。手芸部のバナーは大きさもあるし、1枚1.5キロとなかなか思いので、1時間ただ持って立っているだけでもまあ結構疲れる。それでも、一緒に腕をぷるぷるさせて路上に立ってる時、このプロジェクトをやってよかったなといちばん実感している気がする。

(6月7日入管法改悪の強行採決に反対する緊急大集会での「政治的な手芸部」2023バナー)

正直、こうした活動をどうしたら続けていけるのか、どこまでやれるのかは、わからない。答えは出てない。お金も時間も、それぞれ有限で、時には離れていくしかないこともある。それでも、「For Good」のようにフェミニズム、そしてすれ違った色んな人たちと出会ったことで、確かにわたしの人生は善い方向に、そして永遠に変わってしまった。それだけはほんと。だからひとまずは、今はそれでいいのかもしれない。

今回でこのフェミニスト手芸グループ山姥ふたりの連載は終了です。

約2年間あれこれ書いてきましたが、お読みいただいたみなさま、本当にありがとうございました。

とはいえ、わたしたちの活動はこれからも続く予定で、6月17日からは「政治的な手芸部」の2023バナーと「莫連会」の木版画作品の展示をエトセトラブックスBOOKSHOPで行う予定です。

展示最終日7月1日にはわたしたちを含めた、「政治的な手芸部」実行委員会のメンバーがzineの手売り会を行います!
ぜひ遊びに来て&声をかけてもらえるとうれしいです。

みんな、生き延びてどこかで会おうね! またね!

(最近勢いで入れたタトゥー。クレイジーキルトのステッチと縫い針のデザイン)

 

フェミニスト手芸グループ山姥(やまんば)
2019年からマルリナ・かんなの2人で、フェミニズムや自分たちの好きな本、漫画をテーマにした手芸(刺繍や編み物)をして活動中。山姥は俗世間に馴染めず、おそろしい存在として排除されてきました。しかし、実は彼女たちは歴史や制度、そして男たちの期待する女の姿に押し込められず、闘ってきた女たちではないでしょうか。そうした先人たちの抗い方を見習いたい、そんな思いで活動しています。