記事を検索する

「女の知恵は針の先」第18回:関西フェミニズム旅行記2022・その3(フェミニスト手芸グループ山姥)

2023/1/14

“政治的な”制作活動をしているフェミニスト手芸グループ山姥。この連載は、彼女たちが毎日生活したり活動したり、編んだり縫ったりしながら考えたあれこれの記録です。今回は、2泊3日の「関西フェミ旅行」を敢行したふたりの、超充実したレポートもいよいよラストの3回目。最後まで過密スケジュールをこなしながら、ふたりが出合った特別に貴重な手芸作品の数々をどうぞご覧ください。

 

6月18~20日の2泊3日でしてきた関西フェミニズム旅行。報告がついに年をまたいでしまいましたが、報告その③最終回です、かんなです。

3日目にして「Café&Pantry 松之助」にてまともな朝ごはんを食べる。東京にも店舗はあるが、パンケーキがあるのは京都本店だけなのでたらふく食べる。ふわふわでおいしい。様々なパイがガラスケースに並んでいて、お土産も買ってしまった。同名映画を元に作られた、ミュージカル『ウェイトレス』を思い出す。

店を出てすぐのところで、キルトの展示をやっているのを見かけて覗く。同じタイミングで入ったおばちゃんが入り口の目の前に自転車を止めていたのを警備員に注意されるも、すぐ見終わるからと強行突破。帰り際に「(自転車のことを言われて)急いだからゆっくり見られへんかったわ」と嫌味を言っていくのに笑った。結局警備員が折れて、「せっかくなんだし、ゆっくり見ていってください」と声をかけると、おばちゃんは「そう~? ほなゆっくり見させてもらうわ」と再度キルト展に戻っていった。おばちゃん最高や。

京都精華大学に移動して、『越境―収蔵作品とゲストアーティストがひらく視座』の展示を見る。

わたしたちも寄稿させてもらった、『エトセトラVol.7 特集:くぐり抜けて見つけた場所』の責任編集だった、いちみらみさこさんの『family #2』などの作品や、友人の紹介で知り合った谷澤紗和子さんの『はいけい ちえこ さま』を見る。切り絵の細かさだけでなく、実際に作品を目の前にすると、切り絵の後ろの壁にできる影も美しかった。手芸と同じように、誰にでも反復可能で、美術からは周縁化されてきた手法を使おうという姿勢に、勝手に仲間意識をおぼえる。

その他、嶋田美子さんや富山妙子さんの作品も展示されていて、フェミニズム的な展示だったねとか言っていたら、東京の知り合いに偶然会う。世界は広いけど、案外せまいこともある。

奈良女子大学に移動。山崎明子さんにお会いする。2020年に『近代日本の「手芸」とジェンダー』という本を読み、感想をツイートしたところ、著者である山崎明子さんご本人とひょんなことからつながって、交流がはじまった。

わたしにとっては本当に「運命の一冊」で、政治や家父長制の大きな流れに抗うためにはどうしたらいいのか、「女性らしい」無害で他者奉仕的な趣味と考えられてきた手芸を権力や古臭いジェンダー意識にからめとられずに楽しむにはどうしたらいいのか、自分の中で言葉にならずに悶々としていたことが、一本につながったような感覚だった。こういう研究をしている方がいるんだと感動した。

2021年からは政治的な手芸部にも参加していただいており、山崎さんのおばあさまの縫い糸や刺繍糸を活動のために提供いただいたこともあった。メールでのやり取りはぼつぼつと行っていたのだが、コロナの影響もあってお会いするのは初めてで、しかもなんと図々しくも大学の研究室にお邪魔することになった。

鹿が校舎内を闊歩する、いかにも奈良っぽい中を案内してもらいながら、たどり着いた研究室はマジでわたしたちにとって夢の空間だった。各国の手芸本や、フランス人形、纏足など各国の刺繍、千人針……貴重な資料を次々見せていただいた。

特に山崎さんのおばあさまがやっていたという手芸作品の数々はすばらしかった。時間をつぎ込んで、手間を惜しまず手を動かした跡が、ありありとわかったからだ。もちろん、それらを純粋に楽しんでいたのか、それとも「女らしい」からと誘導されたところがあったのかはわたしにはわからない。でも、少しでも生活をよくしよう、自分の周りを自分の好きなように飾ろうという、そのわずかな抵抗が、胸に迫った。

サンプラーステッチ。丁寧にステッチの名前が添えられている
こちらはなんと!山崎明子さんのひいおばあさまが作られたピアノカバーだそうです。レース編みの紐を編んである手間暇のかかった作品

その中には千人針もあった。博物館でしか見たことがなかったけれど、実際に触らせてもらった。玉結びの刺繍は表から見えず、触り心地のいい布で覆われていて、お腹にあたってもゴツゴツとひっかからないように工夫されていた。家族の無事を願う気持ちを、できる限りの様々な意匠や工夫をした千人針という形で表した切実さが、苦しかった。

千人針。表側からはステッチが見えないが、さわると玉結びの感覚がする

千人針は戦利品としてアメリカ兵が持ち帰り、「コレクション」として市場で取引されているということも教えてもらった。個人の願いや切実さは、国家や資本主義の前には「コレクション」でしかない。大きな物語に流されず、個人がどのように抵抗を続けていくのか。政治や国家に自分の声を回収されずに、生きることはできるのか。たくさんの資料を見ながら答えの出ないことをぐるぐる考えてしまった。

千人針と旭日旗のコレクターのコレクションをまとめたアメリカの本

お会いしたのは初めてだったが、話は尽きることがなくて、帰りの新幹線ぎりぎりまで粘ってしまった。後ろ髪を引かれまくりつつ、慌てて京都に移動。デパ地下でお土産の阿闍梨餅と夕飯代わりの弁当を買い、新幹線に駆け込んだ。無事東京着。予定が詰まりすぎていた関西旅行、これにて2泊3日の旅程終了。

6月の旅行記が年をまたいで、1月までかかってしまったくらいの牛歩なのですが、今年も頑張ります。本年も何卒よろしくお願いします。

2023年は2月に長崎の岡まさはる資料館にあるギャラリーにて「政治的な手芸部」2020・2021・2022のバナー展示を実施予定。岡まさはる資料館は戦争加害に焦点を当てた展示を行う、民間運営の資料館で、展示内容も充実しているので、ぜひお近くの方は立ち寄っていただけるとうれしいです。

 

フェミニスト手芸グループ山姥(やまんば)
2019年からマルリナ・かんなの2人で、フェミニズムや自分たちの好きな本、漫画をテーマにした手芸(刺繍や編み物)をして活動中。山姥は俗世間に馴染めず、おそろしい存在として排除されてきました。しかし、実は彼女たちは歴史や制度、そして男たちの期待する女の姿に押し込められず、闘ってきた女たちではないでしょうか。そうした先人たちの抗い方を見習いたい、そんな思いで活動しています。