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「女の知恵は針の先」第11回:戸籍制度、いりますか?(フェミニスト手芸グループ山姥)

2022/4/14

 

“政治的な”制作活動をしているフェミニスト手芸グループ山姥。この連載は、彼女たちが毎日生活したり活動したり、編んだり縫ったりしながら考えたあれこれの記録です。第11回は、戸籍制度って一体なんなんだよ! というテーマです。

 

今回の担当はマルリナです。突然だけど、わたしの戸籍にまつわる話。

わたしの親は、わたしが高校生のときに離婚しました。父と母は、婚姻届提出時に「婚姻後の夫婦の氏」の項目で「夫の氏」にチェックを入れたので母は父の名字に変更しました。日本国籍の法律婚している親から生まれたわたしの名字も必然的に父の名字でした。その後、父と母は離婚したので、母は自分一人の戸籍を作り、旧姓に変更しました。

(離婚前の名字を継続しながら新しい一人の戸籍をつくることもできるので、母は弁護士から「ぱっと見は元夫と同じ名字のままだけど、別々の戸籍だから、新加勢大周みたいでそれでもいいんじゃない?」と言われたらしい。例えが謎。)

この時点でわたしと弟の名字は父と同じままで、父の戸籍に残った状態です。親権は母でしたが、親権と戸籍は別問題。母はわたしと弟を父の戸籍から自分と同じ戸籍に移そうとしましたが、名字が違うので移せませんでした。母は、区役所で「同じ名字の人しか同じ戸籍にできないよ」と言われて初めて知ったそうです。これは、筆頭者の姓が戸籍の在籍者全員に及ぶそのためだそうで、わたしは当時高校生でしたがこの話を聞いて初めてそのような仕組みを“体感”しました。母は家庭裁判所に「子の氏の変更申し立て」を行いました。わたしと弟を自分と同じ名字に変更してから、自分と同じ戸籍に入れました(いわゆる“入籍”)。

わたしは高校二年生のときに戸籍上、今まで使っていた名字でなくなりました。戸籍上の名字が変わっても通っていた高校では通称名として元々の名字を使いました。でも健康保険証の名前は変わりました。役所から来る手紙も戸籍上の名字です。当時のわたしは名字が二つある感じで、病院は戸籍上の名字で呼ばれますが、例えば地域のスポーツセンターのカードの名前、図書カードの名前、美容院などを予約するときの名前は、わたしどっちの名字を使ってたっけ? と考えなければならず、よく「◯◯か××で登録してると思うんですが……」と言っていました。理由が親の離婚なので、いちいち説明する気にもならないし、とにかく不快でした。

パスポートの氏名変更もしたので、短大一年のとき、格安ハワイ旅行に友達と行った際にはクレジットカードの名前とパスポートの名前が違うので不正利用を疑われ、つたなすぎる英語でパスポートの後ろの方のページにある氏名変更の小さい表記を説明しなければならず、ものすごくめんどうくさくなりました。このような日常生活の不愉快の積み重ねに耐えきれなくなり、母の名字をやめて元の名字(父と同じ名字)に戻そうと思いました。

当時未成年だったので、名字を元に戻すには父の戸籍に入るしかなく、仕方なく父の戸籍に入りました(父は暴力男だったので抵抗はありましたが、とにかく名字が二つある不愉快を解決することが優先でした)。すると知らない女性の名前が戸籍に載っていました。おそらく父は再婚していたのでしょう。当時の私は、さすがに見知らぬ女性と同じ戸籍は居心地が悪いなぁと思い、今すぐこの戸籍から抜けたい……と思いました。調べた結果、分籍すると“ひとり戸籍”になれるらしいと分かり、区役所へ行って「分籍したい」と伝えましたが、二十歳になってからじゃないとできないと言われました。未成年だと分籍ができませんでした……。仕方がないので二十歳の誕生日を待って、区役所で紙一枚「分籍届」を書いて、自分が戸籍の筆頭者である“ひとり戸籍”を作りました。

ふと、そんな約15年前の出来事を振り返りながら、下夷美幸著『日本の家族と戸籍 なぜ「夫婦と未婚の子」単位なのか』(東京大学出版、2019年)を読んでみたら、まさにわたしの家族概念も戸籍制度が形作っているのではないかと気づかされました。どこかで自分が“正しい”家族の道をたどってきていないぞと思ってきたのですが、それも戸籍制度が想定する“正統”な家族ではないからなのではないか……。

 

この本の第4章、第5章では、新聞の身の上相談の分析がなされているのですが、「戸籍は家族が記載されるものであり、戸籍に記載されているのが家族である、という「戸籍=家族」観念」という説明がしばしば出てきます。まさに、自分の戸籍に見知らぬ女性が記載されていると知ったときの違和感……この人まじで誰、わたしの“家族”じゃないのに……という感情は「戸籍=家族」観念から来ているのだと思います。

とはいっても、戸籍は別々でも一緒に暮している母を家族じゃないとは思わなかったのですが。この本で指摘されているように「婚姻家族」から少しでもはみ出ると戸籍と闘わなくてはならなくなる……。自分もそれに巻き込まれていたということに15年以上経ってやっと分かりました。

“正統”な家族以外を翻弄させることに加え、戸籍をめぐる数多の問題(無戸籍者、日本国籍所有者以外の排除、本籍地の記載、性別変更要件etc.)を考えると、戸籍制度ってなんなんだろうと思わざるをえません。極めて差別的な制度ではないかと改めて思うわけです。

 

フェミニスト手芸グループ山姥(やまんば)
2019年からマルリナ・かんなの2人で、フェミニズムや自分たちの好きな本、漫画をテーマにした手芸(刺繍や編み物)をして活動中。山姥は俗世間に馴染めず、おそろしい存在として排除されてきました。しかし、実は彼女たちは歴史や制度、そして男たちの期待する女の姿に押し込められず、闘ってきた女たちではないでしょうか。そうした先人たちの抗い方を見習いたい、そんな思いで活動しています。