記事を検索する

『エトセトラ VOL.4』(特集:女性運動とバックラッシュ)より 石川優実「はじめに」を公開します。

2020/11/13

画像1

はじめに     石川優実

 

「バックラッシュ」という言葉を私が知ったのは、#KuTooという運動を始めた頃だろうか。
「フェミニズムが盛り上がった後には必ずと言っていいほど揺り戻しがある、それが私は怖い」
そう言っている女性がいて、私はその日初めてバックラッシュというものの存在を認識した。2019年6月、まさに私はそのバックラッシュ真っ最中だったように思う。

「#KuTooは女性差別に対する運動です」
そう明言して以降、私や#KuTooにはずっとバックラッシュが起こっている。デマをばらまく、孤立させようとする、嫌がらせリプライを毎日送る、運動が失敗したということにする(厚労省のパンフに掲載され、企業も運動の影響を受けフラットシューズもありにした、という報道があったにもかかわらず……!)、私の性格が悪いから賛同者が増えないということにする(署名は3万集まったにもかかわらず……!)、「死ね」という言葉を投げつける……。

でも、なんだろう。これってあんまり、「初めての経験」という感じがしない。これまでにもこんなようなことは薄っすらと、しかしずっと経験してきたような気がする。
女だという理由で嫌がらせをされたり、セクハラを受けたり、噓をついていると決めつけられたり、男に性的に見られたいに決まっていると思われたり、仕事の能力がないということにされたり。思い返せば、生きてきた33年間ずっとバックラッシュ的なものに苦しめられていたような気がしてならない。

さて、ではそのバックラッシュにはどんな効果(?)があるのだろうか?
私がフェミニズムに出あい、性差別への反対活動を始めた頃、応援してくれる知人にこう言われたことがある。
「これからは自分自身との戦いになると思う。いつでも自分自身を信じて頑張って」と。
今になってとてもその言葉の意味を痛感する。バックラッシュには、自分を信じさせなくなる効果があると思う。自分は間違っているんじゃないかと思わせる効果があると思う。自分のことを大嫌いにさせる効果があると思う。そして、もしその効果通りに私自身がなったとしたならば、私は女性運動の全てをやめるだろう。私自身をもやめてしまうかもしれない。

でも、もう一度よくよく考えてみよう。フェミニズムに出あうまでの約30年間、私はずっと自分を信じられなかったし、自分は間違っているんじゃないかと思ってきたし、自分のことが大嫌いだった。ずっとずっと、女性差別というバックラッシュを受け、まんまとその効果通りの自分で生きてきたのだった。
でも、フェミニズムと出あった今はもう違う。

#KuTooで受けたバックラッシュとずっと受けてきた性差別がほぼ重なるように 、これらは奴らの「いつものやり口」なのだ。
女性を自分たちの都合の良い存在でいさせるため、自信を無くさせ、主体性を無くさせるためのいつものやり口。
ウーマンリブの田中美津さんは著書の中で、「リブは『男は敵だ』と煽っているとよく報じられました。そんなこと一度だって言ったことないのに」と書いていた。ほら、ここでもおんなじ、「いつものやり口」が使われている。#KuTooだって、一度も男が悪いと言ったことはないのに石川優実は男性差別主義者だ、とか言われている。
「なんだよ、こいつら誰が何やっても女性運動にはおんなじこと言ってんじゃん」と知った私は、とても心が楽になった。むしろ、これは付き物だ。私が正しいことをしている証拠のようにも思えた。

これって、#MeTooをした時の「私も同じように自分を責めていました」と同じ現象なのではないか。その事実を知ることによって、みんな同じなんだということを知ることによって、これは私側の問題じゃないんだということに気がつくことができた。
問題はいつでも、嫌がらせやハラスメント、性暴力や性差別をする側にある。
私のせいでバックラッシュや性差別は行われているのではない。それに気がついた時の安心感、心強さ。それをもうすでに#MeTooをはじめとする様々な連帯で体験していたではないか。

ということで、そんな例を、たくさん集めてみようと思う。これまでの女性運動にはどんなことがあって、どんなバックラッシュがあったのか。知識は勇気になる。知識は優しさになる。知識は自分を助けてくれる。知識は他の誰かのことを助けることができる。

フェミニストは過激だから賛同が得られない?
日本のフェミニズムは本質からずれている?
そんな攻撃的な言葉遣いじゃ誰も聞いてくれない?
認めてもらうには配慮を?

これまで言われてきたことは、本当にそうなのだろうか。
歴史と事実をぜひ、知りたい。それを知ることによって、私は、私たちは自分自身を信じることをやめずに、時に楽しく、時に激しく、女性運動をし続けていくことができるのではないかと思う。

 

2020年11 月27日発売『エトセトラ VOL.4』の書誌はこちらです
どうぞご期待ください。