「翻訳者たちのフェミニスト読書日記」

No.2 『反乱は続いている─3世代のフェミニストたち』─シスターたちの道をたどる(よこのなな)

2020/8/14

海外のフェミニズム作品を私たちに紹介してくれる翻訳家たちは、お仕事以外にどんなフェミ本を読んでいるのだろう? 読書リレーエッセイ第2回は、スウェーデン語翻訳のよこのななさんが、現地で出合った熱きシスターフッド本について!

大事にしている図録がある。黒地に赤で描かれたフェミニズムのシンボルの拳マーク、その下に同じく赤で小さく「愛、権力、そしてシスターフッド」とある。2002年にスウェーデンの小さな街で観た展覧会のものだ(註1)。
1970年代のフェミニズム運動の牽引役とされる集団「GRUPP8」が、国際女性デーを祝う公式な集会を首都ストックホルムで初めて開いたのが1972年3月8日。それから30年を記念して、70年代を中心に過去30年の運動を振り返る内容だった。

01_図録

「泣かずに闘おう(Gråt inte – kämpa!)」「すべてのこどもに保育園を(Daghem åt alla barn!)」などの当時の代表的なスローガンが大きく掲げられ、ポップなチラシやポスターが目を引く。集会の告知、ストライキへの支援、活動の報告、連帯への呼びかけ。
当時のスウェーデンで女性たちが求めていたのは、中絶の自由、性暴力の厳罰化、労働と育児の両立のための環境整備、同一労働同一賃金に基づく賃上げや正規雇用への転換を含めた労働環境の改善など、今の日本で求められているのとほぼ同じことだ。

02‗展示エントランス

04‗展示風景2

思わず凝視したのは、天井からぶら下げられた白いTシャツに書かれた「Vi vill ha sex/vi vill ha sex/vi vill ha sex/timmars arbetsdag」。
これは6時間労働を求める運動のスローガン「6、6、6時間労働を!」で、英語なら「We want six/we want six/we want six-hour working days」となり別におもしろくもないが、スウェーデン語では数字の「6」と「セックス」がまったく同じ綴りであることを活かした文言だ。笑いと皮肉を込めながらストレートに要求にする。展覧会が伝える女性たちの運動そのものだった。

05‗6時間労働

「シスターフッド」という言葉を初めて意識したのはこのときだ。女性のつながりを「姉妹」という言葉で表す心強さを感じたのを覚えている。もちろん同性だというだけですべてをわかり合えるわけではない。仲間だと思っていた女性に家父長制を押し付けられてうんざりした経験は、男性からの抑圧よりもきつく苦い後味を残す。
図録には活動に携わった人たちの手記が収められていたが、思想や方向性の違いから生じる摩擦や問題も記されている。それでも、高らかに宣言される「シスターフッド」は清々しかった。

先日、スウェーデン在住の福田和子さんのTwitterで「ショッピングモールで流れてた下着の広告が多様性の極み」として、写真が紹介されていた(註2)。年齢や体型が様々な女性たちがフィットした下着をつけて、更衣室らしき場所でくつろいでいる様子。日常のひとコマのようないい写真だった。

私が暮らした20年ほど前のスウェーデンでは、街のいたるところで目にする広告は、完璧な体型のスーパーモデル、たとえばクラウディア・シファーが、寄せて上げるブラとパンツになぜか高いヒールを身につけて、立ってたり寝そべってたりするものだった。
クリスマスの恒例なんだよねー、彼女にプレゼントしなよってこと、と知人は言った。多様性があるとは言いがたい、裸に近い女性の身体が、公共空間で人々の目にさらされていることへの違和感、居心地の悪さを感じた。
こうした広告をペンキで塗りつぶす活動をする若いフェミニストたちもいたが、過激なフェミニストと揶揄されていた。破壊行動として裁判沙汰にもなる直接行動に眉をひそめる女性も多かったはずだ。何もそこまでしなくても、と。

でも、その20年前のシスターたちの活動が、今を変え、様々な女たちがともに笑い合う広告を生みだした。多様性あふれる広告は空から降ってきたわけじゃない。

冒頭の2002年の展覧会で知った本に『反乱は続いている――3世代のフェミニストたち』がある(註3)。

06‗反乱は続いている書影

1970年代生まれの5人の著者たちが、3世代にわたる女性たちの活動を聞き書きしたものだ。下は10代、上は90代までの各地に住む女性(と何人かの男性)にメンバーが会いに行き、率直な質問を投げかける。
1970年代の清掃員たちのストライキの様子を身を乗り出して聞き、同じく70年代にあったとされる「性の革命」とは具体的には何だったのかという疑問をぶつけ、90年代の高校生たちの学校での悩みや抗議活動に耳を傾ける。違法行為も辞さないと話すラディカルフェミニスト、医療現場の様々な格差に疑問を感じる看護師、男らしさの呪縛と闘う男子などなど、登場する人々とその生活や活動の領域は広範だ。

中でもおもしろかったのは祖母世代の話だ。幼いときから「女中」として働いた女性、DVから逃れるため当時はタブーに近かった離婚を選んだ女性、家族ぐるみで付き合いのあったエマ・ゴールドマンに助けられてノルウェーに逃れたという女性など、驚くほど背景が違う人たちが登場する。民主主義や女性への権利が確立されていない時代、女性たちの経験には大きな差があるが、自分らしく生きたいという想いはみんな同じだ。

荘園にある屋敷で育った上流階級出身の女性インゲボリは、「女性のための市民学校」に参加して初めて労働階級と交流を持った。同室だった工場勤務の女性たちと毎晩様々な話をした、と振り返る。
「女性のための市民学校(Kvinnliga medborgarskolan vid Fogelstad)」は「女性が民主主義を学ぶための場所」として、作家エーリン・ヴァーグナーを含む5人の女性が1925年に設立したものだ。

インゲボリの姉も設立メンバーで校長を務めていた。1919年に参政権を獲得したばかりのスウェーデンの女性は、社会について考えることや自分の考えを口にすることにまだ慣れていない、だからみんなで学ぼう、練習しよう、というのが学校設立の趣旨だ。
住む場所や身分を問わず誰でも参加資格があるサマースクールで、女性たちは講義と共同生活を通して互いのことを話し合った。インゲボリはこう語る。階級が違うとわかり合えないんじゃないかと思っていたけどそんなことはなかった、それぞれに人生の違う経験を積んでいただけなんだ、と。

『反乱は続いている』は20世紀全体のスウェーデン女性たちの運動と暮らしを見渡すことができる労作だ。歴史に残る大きな活動の当事者たちの声が収録されている。だが、「著者たちの主観が入り過ぎている。せっかく聞いた貴重な歴史的エピソードを掘り下げず、個人の思索へと戻ってばかり。書きようによっては新たな古典となり得る可能性も持っていたのに残念だ」という評価もある(註4)。

指摘は妥当だが、若い著者たちの気持ちが率直に書かれている点はむしろ本書の魅力だと思う。女性限定コミュニティに住む活動家と会う際に、自分が「女っぽすぎないか」気になってしまう。
若い子たちの話を聞いて自分の高校時代を思い出す。熱い闘争の時代の話を聞いてうらやましくなり「政治の冬」と言われた自分の青春時代を嘆く。等身大の迷いや不安、希望を抱えた著者たちの目を通して知る女性たちは、歴史の中の英雄ではなく、わたしたちとそう変わらない存在なんだと思える。

この春、ジンを作るために『反乱は続いている』の著者の一人にメールをしてみた。この本では革命に憧れると繰り返していた彼女から、当時はさほど興味を持っていなかった「女性の領域」とされることに興味が移り、今は家事労働を研究している、という答えが返ってきた。
わたしは彼女とほぼ同世代なので言いたいことがわかる気がした。大きな闘争や活動に対する興味は尽きないが、平凡とされる生き方をした女性たちはどんな気持ちを抱えていたのかが気になり、清掃員、主婦、事務員などいわゆる女性の領域で働く人たちが描かれたものを読むことが増えている。

歴史を変えるほどの大きな行動と、日々の暮らしにある小さな変革の積み重ねは、どちらもなくてはならないものだから。

(註1)
展覧会の原題は「Kärlek, makt och systerskap」で、南東部のノルショーピングにある労働博物館とイェーテボリ大学のジェンダー研究拠点が共催した。2003年3月から11月までノルショーピングで展示され、その後イェーテボリ、ルンド、ストックホルムを巡回した。展覧会自体のウェブサイトはもうないが、同名のプロジェクトとしてスウェーデンの女性運動の歴史を紹介するウェブサイトがある。
http://www2.ub.gu.se/kvinn/portaler/systerskap/handledning/

(註2)
スウェーデンで公衆衛生を勉強中の#なんでないのプロジェクト福田和子さんのツイートより。
https://twitter.com/kazukof12/status/1278637644063354882?s=20
https://www.youtube.com/embed/FfFcmSvGoJA

(註3)
Fanny Ambjörnsson, Siri Ambjörnsson, Emma Janke, Maria Jönsson, Erika Sörensson 1999. Uppror pågår – Feminister i tre generationer. Stockholm: Alfabeta Bokförlag.

(註4)
この評は、2015年にスウェーデンアカデミー初の女性事務局長に選出された文学研究者、サーラ・ダーニウス(サラ・ダニウス)によるものだ。ノーベル文学賞を発表するのが事務局長で、彼女が初めて発表した受賞者はボブ・ディランだ。その手腕によるアカデミー改革が期待されていたが、ハラスメント問題の対応をめぐり会員の大多数を占める守旧派と対立、2018年4月、辞任に追い込まれた。そして以前からの病気のため、2019年10月に57歳で亡くなった。辞任をめぐっては、ダーニウスを支持する多くの市民が彼女のトレードマークだったボウタイシャツを身につけてアカデミーへの抗議集会を開き、1970年代生まれの女性作家らもダーニウス支持の意思を示して自らアカデミーを辞した。

よこのなな
スウェーデン語翻訳者。女性たちの声を届ける勝手に翻訳プロジェクトとしてジン「ASTRID」を不定期に発行。初の翻訳書が近く刊行予定。