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「南米といえばフェミニズム」第20回(最終回)よろこびと苦しみと感謝:2年間を振り返る(岩間香純)

2023/12/19

「南米」「ラテンアメリカ」と聞いて思い浮かべるのは? 「危険」「治安」「発展途上」などなど、ステレオタイプが今でもひとり歩きしているのではないだろうか。南米エクアドルに住むフェミニストが、自分と南米とフェミニズムを語り、現地からレポートする、悪しきイメージを蹴散らかす連載エッセイ。2年続いた連載も最終回です。岩間さんの連載は、南米と日本のフェミニズムを直接繋げてくれるものでした。繋がれたのだから、また会いましょう!
*『カルソネス・パルランテス(声を上げるパンツ)』の展示は終了しました。

 
ただいま日本に一時帰国中である。ある日、子どもと散歩をしていたら下校中の中学生らしき生徒たちが歩いていた。そこでハッと目に留まったのは、ズボンスタイルの制服で歩いている女子生徒。そっか、最近では女子でもスカートではなくズボンの制服を選択できるところもあると聞いたけど、もしかしてそういう学校なのかな。日本も少しずつ、ジェンダーに関して生きやすい方向に向かっているのかな。そんなことを考えながら走り回るわが子を追いかけまわしていた。

2022年1月に始まったこのこの連載は今月で終了だ。この2年間で、世の中は良い方向にも悪い方向にも大きく動いた。エクアドルでは憲法裁判所が妊娠人工中絶へのアクセス妨害は人権侵害と判決を出し、改善を試みる法律が少しずつ始動している。その一方で反中絶で反ジェンダーダイバーシティの女性副大統領が今月就任した。

日本では、小田急線刺傷事件が起こったことをきっかけに、たくさんの人が声を上げたおかげで「フェミサイド」という言葉がSNSをはじめとし、広く知れ渡たり、日本でもこうしたジェンダー暴力があることを露わにした。一方で、女性に対してのネット上のハラスメントが訴訟になったり、若年女性支援活動を行っている団体に対して路上での妨害が過激化したりなど、ミソジニストたちのアンチ行為が深刻な問題になっている。

個人的にはここ2年で出産をし、育児を始めたことで生活が本当にこれまでとは比べ物にならなぐらい複雑に一変した。エクアドルと日本で育児生活を経験してみて思うこともたくさんあるので、またの機会でそれについてもフェミニズムの視点を持って綴ってみたい。

もう一つ、ここ2年で取り組んだのは日本と南米のフェミニズム運動を繋げることだった。

それは、この連載で南米の現状を発信するほか、「闘う糸の会」というアートアクティビズム活動を通してだった。今年の11月にはエクアドルから2人のフェミニストアーティストを日本に招聘し、1か月かけて展示やワークショップを開催し、日本のアーティストやフェミニストと交流した。多くの学びあり、困難ありの濃い一か月間は一言では表しきれないが、尊敬する2人のフェミニスト・アーティストと、日本のフェミニストたちが対面で交流できるお手伝いができてとてもうれしく思う。

エクアドルのアーティストたちは、日本のジェンダー暴力がフェミサイドなどわかりやすい形よりも、報道すらされない見えないところで実はたくさん起こっていることなど、日本の独特な現状に驚いていた。また、日本の参加者のみなさまからは、二人の実践を通してケアについて考えたり、フェミニストプロジェクトにおいての参加者との関係、大きな組織との関係など色々新しい視点に出合えたのではないかと思う。

一旦欧米圏を媒介せず、ダイレクトに南米と日本の人たちが繋がれることは、南米のラディカルな反植民地主義のフェミニズムが歪曲されたり薄められずに伝わり、日本の社会運動や現状を西洋のレンズを通して分析されることなく届き、互いにとって大きな発見と喜びが期待できると感じた。実施した数々のワークショップや展覧会の現場では日本語とスペイン語で刺激的な会話が飛び交い、みんなにとって有意義な時間であったことを願う。

アクティビズムはとても疲れる。やらなくていい日が来るのが一番。その日が来るまで、できることをやっていきたいと思う。あのズボンの制服を着た女子生徒や、私の子どもが大人になった頃にはこのひどい家父長制ミソジニー社会が過去のものとして教科書に載るような過去のことになるように。

エトセトラブックスで行った闘う糸の会のワークショップの様子。最後にみんなで仕上がったパンツのコンセプトをお話している。

エクアドルのフェミニスト・アーティストのアンドレア・サンブラノ=ロハスさんのプロジェクト『カルソネス・パルランテス(声を上げるパンツ)』で制作された作品の一部の展示(エトセトラブックスにて)

エクアドルの女性から日本の女性やフェミニスト宛てに書かれた手紙の展示(エトセトラブックスにて)
 

岩間香純(いわま・かすみ)
アーティスト、日英翻訳家(たまに西語も)。日米の間で育った二文化から生まれるハイブリッドな視点でフェミニズムやアイデンティティなどのテーマを基にメディアを限定せず制作している。アメリカの美術大学を卒業後しばらく日本で生活し、2017年に南米エクアドルに移住。2021年にエクアドルの大学院を卒業。現在も首都であるキト在住。

エトセトラブックスについて

まだ伝えられていない
女性の声、フェミニストの声を届ける出版社です。

これまでエトセトラ(その他)とされてきた女性の声は無限にあり、フェミニズムの形も個人の数だけ無限にあります。
そんな〈エトセトラ〉を届けるフェミニストプレスです。

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