記事を検索する

「南米といえばフェミニズム」第19回:マザーフッド・ペナルティー(岩間香純)

2023/10/14

「南米」「ラテンアメリカ」と聞いて思い浮かべるのは? 「危険」「治安」「発展途上」などなど、ステレオタイプが今でもひとり歩きしているのではないだろうか。南米エクアドルに住むフェミニストが、自分と南米とフェミニズムを語り、現地からレポートする、悪しきイメージを蹴散らかす連載エッセイ。今回のテーマは、日本でも多くの人が直面する、「母親」が就職・労働するときの困難です。

 
先月、エクアドルで仕事の面接を2件受けた。

職務経歴書の「空白」になるようなところには「妊娠出産の労働のため仕事(賃労働)から一時的に離れる」のようなことを書いているため、書類選考の段階で私に子どもがいることは採用側には伝わっている。それもあって、産後初めてとなる仕事の面接だった今回は、これまでに聞かれたことのない質問をされた。それは「仕事と子育ての両立はどうするのか」。子どもは現在も保育園に通っているので今後も基本的に保育園に預けるというと、その送り迎えはどうするのかとまで聞かれた。就労時間によっては、それは父親がするしかないですね、と答えたが、私が男だったら絶対にここまで問い詰められていないだろうなと思った。

世界的に見ても共働き家庭が年々増えていて、エクアドルも例外ではないとは言えやはり「デフォルト・ペアレント」(親が二人いるとして、暗黙の了解で自動的に育児をより多く担当している親)はもちろん母親、という固定観念は健在だ。そのため、どんなに家庭内で育児を平等に分担していようと、私が母親であるというだけで子どものいない男女や子どものいる男性に比べると仕事に専念できないと勝手に思われてしまうのが腑に落ちないまま面接を終えた。

私が自分のことを「母親」と自覚している以上に、他人のほうが私を「母親」という枠に入れているのがよく分かった。そして「母親だから、仕事に専念できない」という先入観で採用が見送られたり、「母親だから夫の収入メインで生活しているのだろう」と勝手に決めつけられて男性より低い給料を提示されたり、それは時に私の経済力にまで影響を及ぼしかねないのでタチが悪い。

2022年、エクアドルでは経済活動に参加している15歳以上の男性の就業率が78%に対して、女性の就業率は54%。女性の中で61%が非正規雇用など安定しない仕事に就いている(男性の中では45%、これら統計は世界銀行のレポートを参照したもの)。家事育児のために誰が(一時的にでも)仕事を辞めるかという話になった時、安定しない仕事やお給料が低い女性が辞めることになることが多い。その後復帰したくてもまた非正規や低賃金になりやすい。完全に悪循環である。

子どもがいるから今まで以上に安定した収入が必要なのに、そこにマザーフッド・ペナルティー*が課せられる。途方に暮れるではないか。この問題は、面接のときに家庭の事情を探る質問を禁じる法律を設けるという具体策のほか、社会的な意識の変化が必要という先の見えない変化が必要だ。明日明後日に解決するようなことではないので私の今後の求職活動は続くが、とりあえず、もっともっとみんなで文句を言おう。

*女性が働きながら出産育児をする際に支払う代償のこと。統計によれば、母親は労働力として採用や昇進に選ばれる可能性が低く、給与も低く、父親や子どものいない女性に比べて高い基準が課せられていることがわかっている。

 

岩間香純(いわま・かすみ)
アーティスト、日英翻訳家(たまに西語も)。日米の間で育った二文化から生まれるハイブリッドな視点でフェミニズムやアイデンティティなどのテーマを基にメディアを限定せず制作している。アメリカの美術大学を卒業後しばらく日本で生活し、2017年に南米エクアドルに移住。2021年にエクアドルの大学院を卒業。現在も首都であるキト在住。

エトセトラブックスについて

まだ伝えられていない
女性の声、フェミニストの声を届ける出版社です。

これまでエトセトラ(その他)とされてきた女性の声は無限にあり、フェミニズムの形も個人の数だけ無限にあります。
そんな〈エトセトラ〉を届けるフェミニストプレスです。

etc. books news letter

etc. books official sns

株式会社エトセトラブックス
〒155-0033 東京都世田谷区代田4-10-18ダイタビル1F
TEL:03-6300-0884(出版社専用) FAX:050-5370-0466
設立:2018年12月 代表:松尾亜紀子