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「南米といえばフェミニズム」第18回:アマゾンを守れ!Sí al Yasuní!」(岩間香純)

2023/9/15

「南米」「ラテンアメリカ」と聞いて思い浮かべるのは? 「危険」「治安」「発展途上」などなど、ステレオタイプが今でもひとり歩きしているのではないだろうか。南米エクアドルに住むフェミニストが、自分と南米とフェミニズムを語り、現地からレポートする、悪しきイメージを蹴散らかす連載エッセイ。今回のテーマは、日本に住む人ももちろんいま直面している(すべき)環境問題です。アマゾンを守る選択を、私たちならできたでしょうか。

 

エクアドルでは2023年8月20日が大統領選挙の投票日だった。約一週間前に、大統領候補の一人が射殺されるという大事件が起こり、国を震撼させたが、予定通り投票は行われた。

今年の選挙では、大統領を選ぶだけでなく、同時に「Consulta Popular(コンスルタ・ポプラール)」という、国民投票のようなものも行われた。今回の国民投票では、エクアドルのアマゾン地域などでの採掘事業に賛成か反対かを示された。国民投票はただの世論調査ではなく、投票結果に従った政策をとられることが法によって規定されているので直接的な効力がある。そのため、反対派も賛成派も、国民を説得するためのキャンペーンに力を入れている。

保護地域として国民投票で挙げられたのは主に、世界有数の生態系の多様性を誇るアマゾンのヤスニ国立公園(Yasuní)とシエラ(山岳地帯)のチョコ・アンディノ(Chocó Andino)という地域。ヤスニには原油、チョコ・アンディノにはミネラル(鉱物)があり、世界中の企業がそれらの資源を狙っているだけではなく、エクアドル政府も長年資源の輸出から得る利益に頼ってきた。

“¿Está usted de acuerdo en que el gobierno ecuatoriano mantenga el crudo del ITT, conocido como bloque 43, indefinidamente en el subsuelo?”
「あなたはエクアドル政府が、43ブロックとも呼ばれるITT地域(イシュピンゴ、タンボチョカ、ティプティ二)に存在する原油を無期限に地下に保護することに賛成ですか?」

投票用紙には、このような質問が書かれていて、それに対して賛成(シー)か、または反対(ノー)にマークをする。

保護賛成キャンペーンの「Sí al Yasuní」(シー・アル・ヤスニ)を主導していたのは、Yasunidos(ヤスニドス)という環境保護活動団体。ほかにも、Acción Ecológica(アクシオン・エコロヒカ)、Quito Sin Minería(キト・シン・ミネリア)が加わった。

投票日が近づくに連れ保護賛成派も、採掘を推進したい保護反対派もキャンペーンがより一層ヒートアップした。政府や採掘事業から利益を得る大中企業、癒着から利益を得る政治家が保護に反対するのは予想通りだが、一般市民でもアマゾンの資源採掘(つまり環境汚染、破壊)に賛成の人がいることに驚いた。なぜ環境破壊に賛成できるのかというと、保護に「ノー」キャンペーンは、採掘事業をこう正当化しているからである:

「偽情報にNO。ウソにNO。発展の遅れにNO。脱ドル化を回避するためにNO。幸福を確保するためにNOと投票!」

反対キャンペーンのポスター

コロナ禍で経済が低迷し、多くの住民が生活に不安を抱えている事に漬け込んだ文句である。ポスターの一番下にある「ヤスニ、がんばれ!」(FuerzaYasuníITT)という言葉が皮肉にも意味不明にも聞こえる。

結果は、「Sí al Yasuní」キャンペーンのおかげもあって、賛成票が勝り、エクアドル住民は今後の採掘事業への反対を政府に突き付けた。これの結果に対し、政府は現在、抜け穴を必死に探して投票結果を覆す、または骨抜きにしようとしているため安心はできないが、投票結果によってヤスニとチョコ・アンディノを保護を今後主張するための大きな根拠ができた。

アマゾンは地球の肺とも言われる。それを保護することは、エクアドルの住民だけの問題ではない。これからも続くであろう環境保護運動を日本からも見守って、応援してほしいと思う。

保護賛成キャンペーン「Sí al Yasuní」キャンペーンのポスター

岩間香純(いわま・かすみ)
アーティスト、日英翻訳家(たまに西語も)。日米の間で育った二文化から生まれるハイブリッドな視点でフェミニズムやアイデンティティなどのテーマを基にメディアを限定せず制作している。アメリカの美術大学を卒業後しばらく日本で生活し、2017年に南米エクアドルに移住。2021年にエクアドルの大学院を卒業。現在も首都であるキト在住。

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