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「南米といえばフェミニズム」第17回:53年と189年先のジェンダー平等(岩間香純)

2023/7/14

「南米」「ラテンアメリカ」と聞いて思い浮かべるのは? 「危険」「治安」「発展途上」などなど、ステレオタイプが今でもひとり歩きしているのではないだろうか。南米エクアドルに住むフェミニストが、自分と南米とフェミニズムを語り、現地からレポートする、悪しきイメージを蹴散らかす連載エッセイ。今回は、日本は最低記録を爆進中の「ジェンダーギャップ指数」を、エクアドルから見た話です。

 

毎年一部で話題になる世界経済フォーラムの「Global Gender Gap Report」。世界各国のジェンダーギャップの調査を行い、カテゴリー毎に分析し、総合分析に基づく「ジェンダーギャップ指数ランキング」を発表している。上位は北欧諸国が目立ち、日本といえばお約束のように順位が常に低い。今年も146国中125位と過去最低を記録し、G7諸国の中では最下位であることは言うまでもない。

日本のメディアで報道されるのはここまでの情報が多い。日本のより低い順位の国は紛争地域やテロ組織の脅威と戦っている国が多い。

私はエクアドルの順位が気になって調べたら、今年は50位と、数年前に比べたら若干順位を落としてはいるものの、日本に比べたら遥かに上位にある(私のもう一つの母国、アメリカ合衆国は43位なのでエクアドルと大差ない)。ほかのラテンアメリカ地域の国々も日本より上位で、中米ニカラグアに至っては7位と、トップ10入りしている。私は、WEFのレポート、特にエクアドルと日本、ラテンアメリカと東アジア+太平洋諸国の調査に注目してみた。

この順位の差は主に、ラテンアメリカ諸国が状況を少しずつ改善しているのに対して、東アジアが昨年に比べただけでも0.2%状況が悪化していることが要因にある。私はこれまで、エクアドルの順位の低さはきっとEducational Attainment(教育)とHealth and Survival(健康と生存)のカテゴリーが影響しているのではと勝手に想像していたが、今年のレポートを読むと、世界的に見てもこの二つのカテゴリーでのジェンダー格差は一番改善がみられるらしい。教育分野では、リテラシー(識字率)は日本の方が上だが、第三次教育への入学率のジェンダーギャップ(中等教育後の大学など)はエクアドルの方が上だ。

これは私の考えだが、エクアドルで識字率の低さに対して女性の第三次教育進学率が高いのは、ジェンダーだけではなく階級の問題が絡んでいるからではないか。エクアドルにおいてこの識字率は恐らく「スペイン語」での読み書きを意味すると憶測するが(理由は、第三次教育の段階では必ずスペイン語の知識が必要だから)、読み書きができない女性は初等教育、中等教育も終えることのできない貧困層にある女性、スペイン語で教育を受ける機会が少ない地方在住で経済的に困窮している先住民女性なのではないか(たとえばアマゾン地域に住んでいる先住民族は普段民族言語で生活して、少数は高校進学のためにアマゾンを出ることがあるが、10代での妊娠も多いため、進学するのは男性が多い)。

スペイン語で難なく読み書きができるようになる女性はそもそも大学まで進学すること前提で育てられている、中産階級以上の女性と思われる。簡単に言うと、スペイン語が堪能ではない人口は一定数いるが、できる人口にはジェンダー格差がなく、結果として第三次教育の入学率にもジェンダー格差が少ない。

対して日本では、識字率(日本の場合は日本語での識字率と予想)にはジェンダー格差がほぼほぼない。ほとんどの女性が読み書きができるが第三次教育の進学率にはジェンダー格差が現れる。これは驚きだった。エクアドルでの進学率は国立大学の学費が無料であることも関係しているだろう。

健康と生存のカテゴリーも、日本のジェンダー格差指数が0.973に対して、エクアドルは0.968と、僅差だ。

レポートによると、世界的に見て一番格差の改善が遅いのはEconomic Participation and Opportunity(経済参加と機会)とPolitical Empowerment(政治参加)である。この二つは日本が圧倒的に悪い状況だ。エクアドルでは確かに女性の政治家や官僚が日本より多い。レポート内の政治参加のジェンダーギャップ指数だと、エクアドルは0.278、アメリカ合衆国は0.248、そして日本はというと.……なんと0.057。低いにも程があると言いたい。

同じラテン圏だと、メキシコでは国会議員の男女比率を半々にすることが連邦レベルで規定され、現在実際男女半々になっている。女性国会議員が全員フェミニストとうわけではないが、女性議員が増えたおかげでできた法律があるのも事実(たとえばジェンダー暴力に関するものなど)。

レポートには、この調子だと各地域でジェンダー格差が無くなるまでに何年かかるかも打ち出されている。ラテンアメリカ地域は53年後。私が87歳の時なので、もしかしたらその世界を見ることができるかもしれない。一方、東アジア+太平洋地域は、189年後の未来だ。私のひ孫世代だろうか。いずれにしろ、53年後も189年後も長い時間だ。もっと早く、ジェンダー格差のない世界が実現されることを心から願う。

岩間香純(いわま・かすみ)
アーティスト、日英翻訳家(たまに西語も)。日米の間で育った二文化から生まれるハイブリッドな視点でフェミニズムやアイデンティティなどのテーマを基にメディアを限定せず制作している。アメリカの美術大学を卒業後しばらく日本で生活し、2017年に南米エクアドルに移住。2021年にエクアドルの大学院を卒業。現在も首都であるキト在住。