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「南米といえばフェミニズム」第13回:私の今年のフェミニズム(岩間香純)

2023/2/15

「南米」「ラテンアメリカ」と聞いて思い浮かべるのは? 「危険」「治安」「発展途上」などなど、ステレオタイプが今でもひとり歩きしているのではないだろうか。南米エクアドルに住むフェミニストが、自分と南米とフェミニズムを語り、現地からレポートする、悪しきイメージを蹴散らかす連載エッセイ。今回は、2023年にますますがんばりたい、南米と日本のフェミニストをつなぐ活動への抱負です。

 

明けましておめでとうございます。

これまではそんなに毎年目標や抱負をしっかり決めることはなかったが、子育てで単純にやることが増えたため、生活を整える必然性から今年はやりたいことを整理して目標を自然と考えるようになった。

初対面にもかかわらず失礼なタメ口で話してくるおっさんにはタメ口で返すなど、目標というか心に決めたこといくつかに加え、もうちょっと真面目な目標もいくつかある。

中でも大事な目標は、ここ二年ほどアウトプットが多かったので、今年は少しずつインプットを増やす年にしようと思う。まず、ラテンアメリカと日本のフェミニズムやアートについて読みたい本や資料が山積みなのでそれを一つ一つ読んでいきたい。

その前に最後の対外的な活動として、ただいま「闘う糸の会」というプロジェクトメンバーとして日本でワークショップを展開している。闘う糸の会は、私が2021年に開催したオンライン講座をきっかけに集まったメンバーを中心に、南米のフェミニズムと日本のフェミニズムをアートを通して繋げて、双方のフェミニズムやアクティビズムを学び合い、支え合っていくことを目的としたプロジェクトである。

ワークショップでは私から、南米のフェミサイドとアクティビズムについて短いレクチャーを行い、ラテンアメリカのフェミニズム運動の象徴であるみどりのバンダナに参加者がそれぞれ刺繍などを通してジェンダー暴力を表現していく内容となっている。

最初のワークショップが1月9日に行われ、参加者のみなさまのおかげで想像以上におもしろい会となり感謝している。制作されたバンダナも、初回から完成度の高いもので、圧倒された。また、ワークショップ参加者から『フェミサイドは、ある』(皆本夏樹、タバブックス)という冊子を頂き、読ませていただいた。小田急線刺傷事件をきっかけに声を上げるため動き出した著者の皆本さんによって書かれた冊子は、日本のフェミサイドの現状が知れる、とてもわかりやすく丁寧に書かれた書籍で、皆本さんの努力と思いが痛いほど伝わった。

フェミサイドは、ある。それは南米にも日本にも共通する悲しい事実。今年に入って早々、日本の福岡で女性が男性によって路上で刺殺さたという事件があった。元交際相手からストーカー被害に遭った末の殺害。この事件も「フェミサイド」であることは間違いなさそうだ。

一つ、南米と日本の違いをあげるとしたら、フェミサイドという言葉を使うことへの反応である。「フェミサイドは、ある」にも書かれているが、日本で「フェミサイド」という言葉をSNSで使うや否や批判の嵐、メディアや政治家もその言葉を使うことに”慎重”な姿勢を見せる。

一方、南米ではフェミサイド事件を一般的にフェミサイドと呼び、メディアも政治家もその言葉を躊躇なくつかう。フェミサイドに関しても法律がある国も増えた。「フェミサイドなんてない」と言う人はなかなか見かけない。それは、それだけフェミサイドが否めない社会問題であるということも起因しているが、だからこそ少なくともそれが適切な名前で呼ばれること、周知されることが今後の問題解決には必要不可欠なのではないか。

そういうところで、南米と日本の間で共闘できることはないか? 互いに学び合って運動を強化できないだろうか。南米で暮らし始めたころは、日本とはもう深く関わる機会もないだろうとなんとなく思っていた。南米と日本には、物理的な距離もあるが、精神的な距離もある。日本人が南米に興味を持つことを想像できなかった。

しかし動き始めたら、興味がある人はたくさんいるし、それどころか一緒に活動したいという人もいる。何の実績もなかったにも関わらず、私を信頼して連載という形で発信する場を与えてくれたエトセトラブックスにも感謝している。

これら繋がりと機会を無駄にしないためにも、今年は闘う糸の会の活動を精一杯頑張って、エクアドルに帰国したら今度はインプットに集中してパワーアップし、これからももっと日本と南米のフェミニズム、またそれを繋げるフェミニズムに携わっていけるようにがんばりたい。

今年もよろしくお願いいたします。

 

「闘う糸の会」一回目のワークショップで出来上がったバンダナ作品

 

岩間香純(いわま・かすみ)
アーティスト、日英翻訳家(たまに西語も)。日米の間で育った二文化から生まれるハイブリッドな視点でフェミニズムやアイデンティティなどのテーマを基にメディアを限定せず制作している。アメリカの美術大学を卒業後しばらく日本で生活し、2017年に南米エクアドルに移住。2021年にエクアドルの大学院を卒業。現在も首都であるキト在住。