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「南米といえばフェミニズム」第9回:マチスタ社会で男の子を育てる(岩間香純)

2022/9/14

「南米」「ラテンアメリカ」と聞いて思い浮かべるのは? 「危険」「治安」「発展途上」などなど、ステレオタイプが今でもひとり歩きしているのではないだろうか。南米エクアドルに住むフェミニストが、自分と南米とフェミニズムを考え、語り、現地からレポートする、悪しきイメージを蹴散らかす連載エッセイ。今回は、現在ふたりの子どもを育てている岩間さんが直面した、万国共通、子どもにまつわるピンクとブルー問題、そして「マチョ・プログレ男」について!  

 

私は現在二人の男の子の子育てをしている。一人は5年前から一緒に生活しているパートナーの小学校高学年の長男。もう一人は私が今年三月に出産した次男。私はシスジェンダー女性であり、男兄弟はおらず、父親と暮らした記憶がないことから、男子との日常生活は未知の世界だった。どんな風に世界を見て、感じているのか全くわからない。家父長制が女子にもたらす影響は経験上よくわかっているが、男子にどう影響しているのかは話として頭では理解できても直感的には理解できない。そんな私が今は二人の男の子を育てているわけだが、彼らにはなるべく「ジェンダー」に捕らわれず、また他人のジェンダーにもこだわらず、押し付けず、生きてほしいと思っている。

たとえ親として子どもがジェンダーに捕らわれず自由に生きてほしいという思いで子育てしても、家庭の一歩外は二項対立のジェンダー観が浸透している社会である。もちろん親はすべてをコントロールできない。例えば妊娠中、子どもの性別がわかった途端、プレゼントをくれる親戚が増えた。男の子か女の子か判明していない段階ではピンクかブルーを選べばいいのかわからなかったのだろう。別に男の子でもピンクのモノをあげてもいいし、なんならピンク/ブルー以外の色でもいいはずなのだがそもそもお店に並ぶ商品が男女分けされていて、ピンクかブルーが多いという問題もある。

親として子どもにはいろんな色を好きになってほしいが、結果として息子の服は色はブルー、柄はライオン、恐竜、乗り物が大半だ。プレゼントに対してこんな事を言うのも申し訳ないし、自分たちで買わずに済んだぐらいたくさんのベビー服をいただいたことは本当にありがたいのだが、こうして生まれた時から息子は私たちの意思とは関係なく周囲によって「男の子」のジェンダー偏見が押し付けられ、刷り込まれるのだと実感した。


上:女の子用として売られているおもちゃの売り場はピンク一色
下:車のおもちゃの箱に写っているのはすべて男の子

 
エクアドル及び南米に限らず、世界中のどの社会も基本的に家父長制に基づいて形成されている。男性性が「完全」「普遍」「主体」「優等」として望ましいとされ、女性性は「他者」「非男性」「不完全」「劣等」として否定される。これを一言にまとめたコンセプトがラテン圏にはあるーーそれは「マチスモ」という言葉。マチスモとは女性差別を助長し促すための思想、思考・行動のことであり、男性/男性性は女性/女性性より遥かに優位であるという信条である。

しかし、エクアドルのフェミ仲間とよく話すのは、あからさまなマチスタよりもめんどうなタイプの男についてだ。それは「マチョ・プログレ男」。「マチョ・プログレ」とは普段から左派的な思想を持ち、プログレッシブな運動や政治を支持し、人種や階級差別には反対しているが、ジェンダーやセクシュアリティになると、突然マチスモ寄りの態度になる男のことである。例えばこんな光景に見覚えはないだろうかーーアクティビズムの現場で食事の準備などケア労働やジェンダー化された仕事を女性に指示する男。外ではコミュニティーの重要性、相互扶助について語るのに家事・育児を一切しない男。「いや、今どきは男の方が辛いよ、抑圧されてるよ」と言い出す男。

社会運動、アート、アカデミア界隈に多く生息するタイプの男なだけあって、私もあからさまなマチスタよりもマチョ・プログレ男の方が頻繁に遭遇する。マチョ・プログレが厄介なのは、自分はリベラル思考だという自負があるだけに、ジェンダー/セクシュアリティーに関しては保守的でマチスタな考えに捕らわれていることを認めようとしないことだ。

私のパートナーの父は典型的な「マチョ・プログレ」な気がする。義父は昔エクアドルで反軍事独裁の左派ゲリラ活動をしていて、今でも地方の労働者支援や環境保護活動に携わっている。買い物は地産地消を好み、大型チェーン店スーパーではなく地域の市場や農家から直接買うようにしている。定年になり、海の近くに暮らすため家を建てた時もなるべくゴミを出さず、環境にも良い天然材料を使って建てた。最近は猫の保護活動にも参加しているらしい。

しかし、義父はLGBTQの人への理解がなく、10代の頃からいわゆる「中性的」だった息子(私のパートナー)がゲイなんじゃないかと心配していたらしい。そんなパートナーに長男が生まれた時、義父は彼がゲイでないことがわかってホッとしたと言ったらしい(でもお義父さん、女性との間に子どもができたからゲイではないとも限らないよ)。私たちがなぜ息子たちに男性性を押し付けない子育てをしたいのかも理解できていないようだ。

二項対立型のジェンダー観が根強いマチスタ社会で生活しながら息子たちがマチスタにもマチョ・プログレ男にもならないように育てるにはどうすればいいのか。難しい課題ではあるが、近年ではこの課題と向き合っている人が増えている。ジェンダー視点を持った子育て本や、対話のきっかけになるジェンダーについての子ども向けの本も出版されている。たまたま周りには息子がいる友達が多いので、みんなで悩みなど話し合いながら、次世代のフェミニストの育て方を共有していきたい。

そして男であろうと、女であろうと、ノンバイナリーであろうと、トランスジェンダーであろうと、ありのままの自分として自由に生きれる社会にいつか必ずなるよう、尽くしていきたい。

「彼らは外ではチェ(ゲバラ)だが、家ではピノチェだ」
過去の学生運動を振り返った女性の言葉が書かれた横断幕。左派運動の現場では革命家然とした男性も、家庭内では抑圧する独裁者だ、という意味。

 
岩間香純(いわま・かすみ)
アーティスト、日英翻訳家(たまに西語も)。日米の間で育った二文化から生まれるハイブリッドな視点でフェミニズムやアイデンティティなどのテーマを基にメディアを限定せず制作している。アメリカの美術大学を卒業後しばらく日本で生活し、2017年に南米エクアドルに移住。2021年にエクアドルの大学院を卒業。現在も首都であるキト在住。

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