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第3回 学校で教えてもらえない生理の話

2020/10/2

性教育を広める医師ユニット「アクロストン」が、性教育にまつわる諸問題について日々の話題から考える連載です。正しい性の知識が全然足りていないこの社会、なにが原因か、どうすればいいのか、性教育の現場から語ります! 今回は驚くほど教えられていない「生理」の話。

 

2019年に大阪で開催されたG20サミット開催前、テロ対策として阪急電鉄、都営地下鉄、西武鉄道等の鉄道会社はゴミ箱の撤去を開始。その際に一部の駅では、トイレにあるサニタリーボックスまで撤去されてしまいました。駅には「ごみは持ち帰り」の表示が貼られてはいましたが、まさか生理用品まで含まれるとは想像もしておらず、トイレで交換後に気づいた人もいたそうです。

駅トイレのサニタリーボックスの使用用途(=生理用品を捨てるもの)を知らなかったのか、使用用途を知ってる上で「使用済みの生理用品を持ち帰ってもらおう」と考えたのか、どんな理由で撤去が決定されたのかもよく分かりません。苦情がたくさん寄せられた結果、最終的にはサニタリーボックスは元に戻されました。

当初、私たちアクロストンは鉄道会社がサニタリーボックスを撤去した事実に驚き、生理に関する知識不足を嘆いていました。が、よく考えてみれば、家庭でおしえてもらったり、自分で調べたりしない限り、性別を問わず、生理について正しい知識を得る機会は学校のみ。そして公教育で教えられている内容や時間数を考えれば、鉄道会社でこのようなことがおこったのも無理もないかな、と思ってしまいます。

WEB上でも「生理は1日で終わる」とか「経血は(おしっこやうんちと同様に)我慢できる」「セックスすると生理になる」などの間違った認識をしている人の話はよく目にします。生理がある人でも「生理痛は鎮痛剤などを飲まずに我慢したほうが良い」と思い込んでいる人もいます。生理のあるなしに関わらず、正しい生理の知識を公教育で教える必要性を感じます。
小学校で生理について学ぶのは小学4年生の保健体育の授業のみです。5、6年生の通常授業で学ぶ機会はなく、しかもその4年生での授業時間は1~2時限だけ! 性別に関わらず原則一緒に授業を受けている点だけが昔とくらべてよくなったところです。

学校によっては外部講師を呼んだり(私たちが小学校で授業をしているのはこのパターン)、養護教諭の熱心な先生が生理について詳しい授業をしたりすることもありますが、このような学校は多くはないのが現状です。また小学5、6年生の宿泊研修(林間学校や修学旅行)の前に女子のみに生理のことを教えている学校もありますが、授業を受ける子どもの性別が限られていますし、授業の内容は先生次第となってしまいます。

ほとんどの学校では4年生の生理の授業は保健体育の教科書に沿って授業が展開されています。私たちアクロストンは数年前から小学校で性教育の授業を行っていて、生理についても教えています。指導要領にはそれなりに沿うものの、授業では教科書はほとんど使用していません。なぜなら、教科書の内容と私達が伝えたいことがかけ離れているからです。

それでは教科書がどのようなもの中を見てみましょう。東京都の多くの区で採用されている教科書で生理に扱っているのはこの4ページです。

エトセトラ写真1

エトセトラ写真2

「みんなのほけん」3・4年生
(学研教育みらい 平成31年2月25日 検体済、令和2年1月20日発行)

一見、生理のしくみについてよく書かれており、充分な内容になっているように見えますよね。しかし、教科書に書いてあるのは生理の「しくみ」のことばかり。日数や経血量といった生理の実情については「月に1回」という記載のみです。欄外に「ほかの人とのちがいが気になるときは、ほけん室(養ご)の先生などに相談しましょう。」(P27)とありますが、具体的に何に個人差があるのか書いてなく、何だかわかりません。
生理や生理前にからだに起こる変化も、「おなかが少しはる感じ」(P25)と書かれているだけ。生理の辛さを無理に煽るのは子どもの不安感を強くするだけでよくありませんが、これだけで生理の諸症状を語るのは無理があると思います。
そして生理用品の使い方等、生理のケアの仕方についての記載はゼロです。

また、気になるのが、「思春期になって、月経や射精が起こるようになったことは、新しい命を生み出すじゅんびが始まったしるし」(P27)という記載。確かに生理は、生物学的なしくみの上では生殖と関連した現象です。
では新しい命を生み出すしくみを教科書で説明しているかというと「かけがえのない命。そのもとになるのが、卵子と精子です」(P29)と書いてあるだけ。
5年生の理科で卵子と精子が出会って受精卵になり成長していく過程について出てきますが(ちなみに、セックスのことは一言も触れられていません)、4年生の保健体育では「受精」という言葉すらありません。妊娠のしくみについて教えずに生理と子どもを持つことを結びつける文章が出てくると、「生理はセックスと直結している」という誤解や「大人になったら、みんな子どもを持つもの」という刷り込みがされそうで心配です。

このように現在小学校の保健体育の教科書には生理の実情や生理中・生理前のからだの変化、ケアの仕方については載っていないため、リアルな生理が子ども達に伝わりにくいと思います。中学校でも生理は保健体育で扱いますが、やはりしくみが中心です。からだの変化については少し載っているものの、小学校と同様に生理の実情やケアの仕方は書かれていません。

そもそも生理について大切な知識とは、具体的にどのようなことがからだに起こるのか、その程度がひとりひとり違い困っている人がいて、色々なケアの仕方がありそれを自分で決定できるということです。

私たちの小学校の授業やワークショップでは、子ども達にまず、自分のからだのことは自分で決定できること、他人のことを尊重すること、分からなければ質問をすることを伝えます。そのうえで生理の仕組みや、持続する日数、出血の量のこと。痛みや心が落ち込む人がいて、個人差が大きいこと。ナプキンやタンポン、月経カップなど様々な生理用品があり、自分に合ったものを選べること。また生理は我慢するものではなく、鎮痛薬や低用量ピルなど薬剤で和らげられ、産婦人科で相談できること。これらを丁寧に伝えていきます。

現実問題として、授業の時間数は少なく、学校の先生方は忙しくて新しい知識を入れることは容易ではありません。とはいえ、生理は小学3年生、あるいはもっと早くから始まる子がいます。家庭で生理のケアの仕方について教わることが出来れば問題は無いかもしれませんが、様々な理由でそれが困難な家庭が存在します。生理が具体的にどのようなものなのか、生理用品の使い方、生理の人に対する配慮については公教育でやって欲しいと切に願っています。

冒頭の鉄道会社の件でも、決定権を持つ層が公教育でもっと生理の知識を身につけていれば、そして、生理がある人に質問や相談をすることができていればこのようなことは起こらなかったのではないかと考えています。(意思決定権がある女性管理職が少ないという別の問題もありますが)。

悲しいことに、この国ではなかなか教育内容が変わることはありません。性教育の範囲はなおさら。公教育には期待できないですが、性教育が必要だと考える人は幸いなことに増えています。
性の知識や向き合い方を子どもに伝えることはその子自身の助けになるだけではなく、その子の友人達にも広がるピアエフェクトが期待できます。子どもがいる人に限らず、親戚の子や、その他子どもとふれあうことがある人は、是非、生理の話やその他の性の話をこども達としていただきたいなと思います。
「性教育」というと難しい感じがして構えてしまうかもしれませんが、自分の生理の話、その他自分が知っている話を気軽に子ども達に「シェアする」ぐらいの感覚ではじめてみてください。

実はこの度、大人がこどもと性の話をする際の手助けになる本を作りました。タイトルは『思春期の性と恋愛、子どもたちの頭の中がこんなことになってるなんて!』(主婦の友社)

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子どもが初潮を迎えたときの保護者はどのように接すれば良いのか、我が家の家庭での生理教育の様子をマンガ化したもの、男子も生理を知ったほうがいい理由、などが載っています。もちろん、生理の話だけではなく、こどもが心身の発達にともない抱えやすい悩みや、子どもと性に関する社会的な話など、盛りだくさんな内容です。お手に取っていただけると嬉しいです。10月2日発売です。

アクロストン
妻のみさとは産業医、夫のたかおは病理医として勤めながら、2018年に性教育を広げる「アクロストン」としての活動をスタート。公立小学校の授業や、企業イベントなど、日本各地で性にまつわるワークショップを行う。著書に『赤ちゃんってどうやってできるの? いま、子どもに伝えたい性のQ&A』(主婦の友社)がある。
https://note.com/acrosstone