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フェミ登山部「あの日、山で見た景色」第22回:誰かが私の言葉を拾ってくれる(mado)

2025/9/14

「フェミ登山部」とは、主に関西近郊の山を巡ったり、ときどき遠くの山に登ったりもする、トランスやクィア、シスとヘテロも参加する多様なフェミニストたちのコレクティブ。メンバーたちが山を登りながら、ときに下りたあと考えたあれこれを、リレー形式で綴ってきたこの連載もあとわずか。第22回は、madoさんが「必ず行かなくてはいけなかった」槍ヶ岳に登った大事な数日の話です。

 

最近の私は頭の中が忙しかった。
いろんなことが頭の中で消化されずにたまり続け、
人と一緒にいると体に力が入ってしまい、ひどく疲れるようになっていた。

これって、年をとって我が強くなったから? 適応能力がない?

友達のちょっとした一言が流れていかず、大勢の中にいるとなぜか居心地が悪い。
う~ん、いちいち気になる私がおかしいのか。
何が気になり、何を気にしないでいられるのか、ぐるぐるぐるぐる、だんだんわからなくなっていた。

楽な方を選んだら、一人の生活を選ぶことになるのか。
ずっと一人でいたいわけではないのに。

久しぶりに山に行きたくなり、何年も足が遠のいていたフェミ登山部に参加した。
最近はこわばっている自分の顔を見るのが嫌で写真に写るのも避けてるけど大丈夫かな……。

初めましての方も多い集団で黙々と歩き続けた。
途中悪天候により、ケーブルでの下山組と歩きの下山組とに分かれたけど、
私はまだ歩いていたくて歩きでの下山を選んだ。

人数も少なくなり、顔見知りの人と二人で山の話になり、
死ぬまでに槍ヶ岳に登らないといけないんですよ~と言った1秒後、
来月行くよ! と跳ねるような明るい声。
えええっ来月行くんですか? 頭の中では、行きたい、いやいや無理無理、この1年半で体重は増加、体力は低下、来月ってあと1か月しかないよな……。
そもそも気心知れたグループで行くんだろうし。

あと1か月あるから大丈夫じゃない? 今日の様子なら行けるよ、あと一人ならなんとか参加できると思うし!
軽快な足取りと明るい声に心も体も引っ張ってもらえたからなのか、今なんだ、今行くしかない、とにかく行きたい! なんとか準備を整え、1か月後、上高地へ向け出発した。

突然参加させてもらったことがちょっと申し訳ないような気もして、最初の日は緊張しながら黙々と歩いた。
自分のペースもつかめず、靴紐を緩めてみたり、早歩きしてみたり、距離はあるけど登りも少なくなんとか1日目を無事終えた。

2日目、4時起床、ここから6時間登り。だんだん体力が奪われていくのを感じながら、計画したコースタイムを守りながらも8人それぞれが自分のペースをなんとか見つけながら歩いていく。
みんなの息遣いと足音を聞きながら、だんだんしんどさよりも不思議な感覚を覚えるようになってきた。
一人ひとりちゃんとしんどくならないように自分のペースを守っているのに、8人のペースがひとつになってきている
休憩を取りたくなるタイミングも同じような気がする。

あれだけ忙しかった私の頭の中は、みんなと頂上に立ち怪我無く下山する、ただそれだけ。水がおいしい、みんなからもらう行動食がおいしい、しんどそうな表情をしている人を気にかけながら、言葉ではなく、みんなでペースを調整する。

なんだろうこの心地よさは。

登頂を果たし、今まで写真を避けていたのが噓のように、すべての写真に飛び込んで入り、子どものように笑っている自分が嬉しかった。
そこから旅の最後まで、私はしゃべりにしゃべっていた。

なぜ槍ヶ岳に来なくてはいけなかったか、それは1年半前に突然の交通事故で亡くなった弟の散骨だった。
山が大好きで、いつか槍ヶ岳に連れていってもらう約束をしていた。
なんでも話せる親友であり、同志であり、私が自分が同性愛者だとわかったとき、一番先にカミングアウトできた相手ももちろん弟だった。

心地のいい人たちの中にいると、伝えたいことがでてきて、話をしたくなる。
話したいと思うことを話すのは簡単でも、
言葉にしにくい思いを伝えようとすることは難しい、でもどんな一言でも、何か言葉にして発してみると、仲間がそれを拾ってくれる。
誰かが拾ってくれた言葉がまた形を変え、それをまた誰かが拾って、気が付いたらあれ? そうそうそれが言いたかったんだとうなずいている自分がいたりする。

一人ではできないことが、仲間とならできる場所。
自分は何が好きでどんなことがしたいのか、どんな人といたいのか、自分を知るきっかけになる場所。
安心して話せるから、話したいことも、話しにくいことも言葉にできる場所。

いいのだ、これでいいのだ~と思える場所でいろんな人と話をして、その先にはきっと今とは違う自分がいるんだろうな。

生きることは変わっていくこと。
それを楽しみながら、また、仲間と山に登りたい。

 

見えてからが長いんだってよ~
この梯子を登れば頂上だ!
3180メートルの世界。

 

mado(まど)
バイリンガル幼稚園で遊びながら楽しく学ぶ課外授業を担当。
トントンとして保護猫活動中(使わなくなった革の端材にいろんな刻印をトントンしてお気に入りのアイテムを作るWS)。
キャンプ、焚火好き。

 

フェミ登山部(ふぇみとざんぶ)
2022年春から活動を始めた、月1ペースで主に関西近郊の山を巡る(時々遠出もする)、トランスやクィア、シスとヘテロも参加する多様なフェミニストたちのコレクティブ。トランス差別をはじめとしたあらゆる差別に反対し、自身の特権性に向き合いながら学ぶ姿勢を持つ20代から70代までの幅広い年齢、そして様々な経験を持つフェミニストたちが参加している。