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フェミ登山部「あの日、山で見た景色」第21回:思いがけない場所での芽生え(Andréia Tomo Ohno)

2025/5/15

「フェミ登山部」とは、主に関西近郊の山を巡ったり、ときどき遠くの山に登ったりもする、トランスやクィア、シスとヘテロも参加する多様なフェミニストたちのコレクティブ。メンバーたちが山を登りながら、ときに下りたあと考えたあれこれを、リレー形式で連載します。第21回は、Andréia Tomo Ohnoさんが山から下りてから思い起こした「自分が生える場所」について。

 

The Seedling in the Unexpected Soil
思いがけない場所での芽生

 

また人とぶつかった

みんなから、かわいそうな顔をされるたびに、
とっさに出る感情は悲しみじゃなくて怒り

「ふん」と強がって、隠れて、小さな子どものように大泣きをする
大きな口を開けて、しゃがみ込み、落ち着くのを待つ

なぜ私はここにいるのか、という問いに
脳が走馬灯のように数々のスライドで回答してくれる
思い出しては、また涙がこみあがる

しばらくそれを繰り返し、
今度はこの気持ちを忘れたくないと、スライドをたたむように胸の内にしまう

こんなことが時々ある私だが、
ある時、隠れてしゃがみ込まないで、どこかの映画で見たように走ってみた
職場のビルを出てとにかく走った、スライドはどんどん後ろへ後ろへと落ちて消えていく
(ちょっとドラマティック?なんて客観的に苦笑することもできるんだ。)

「はー」っと一息、目を開けると、岩から小さな芽が出ていた
土がほとんどないところに「こんにちは」って無邪気にこっちを見ている

この芽はきっと、自分でここを選んだわけじゃない
風に運ばれたのか、鳥に運ばれたのか、でもここにいる

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またスライドがポンと頭の後ろからやってきた

日本に来て半年頃、少し生活や日本語にも慣れてきた頃、
テレビの朝の番組で、岩から生えてきたナスビの報道をしている場面

嬉しそうに大きな声で「スタジオのみなさん、見てください。こんな道路のコンクリートをやぶって、なんと、ナスビが生えてきています!」と

そんな報道は一度ではなかった。大根が生えているときもあった。
スタジオや周りにいる人もみんな野菜に向かって「まあ!すごい生命力!がんばって!」と満面の笑みで応援している

あの頃、誰かに伝えることはできなかったけど、私にとっては大きなショックだった
自分にはないその感情をみんなが分かち合い、当然を分かち合っている

「私はちがうんだなっ」て思ったとともに、
あの時、このスライドを折りたたんでしまっていたのだなって、
この小さな芽に気づかされた

私も生える場所を自分で選んだわけではないけど、私は私「Eu sou mais eu」*

*「Eu sou mais eu」はポルトガル語で「私の方がいいわ」のような意味。英語でいうところの「I am more me」。1980年代から音楽やドラマのセリフで使われ始め、その後雑誌タイトルにもなった。女性から発信するフェミニズムをエンパワする言葉としてブラジル社会に浸透している。私自身もこの言葉に何度も助けられてきた。

 

ジャーニが始まったばかりの、私。(グァラパリ・ブラジル)
何故か惹かれた誰かの家 (サンパウロ・ブラジル)
 
「ブーゲンヴィレア」そこらじゅうに咲いていた花(サンパウロ・ブラジル)

me(Eu sou mais eu)

 

Andréia Tomo Ohno 
「おぎゃー」とサンパウロの病院から始まった私のジャーニー。乳幼児室で珍しい黄色い肌の色の私。14歳で来日。あっちでもこっちでも、「普通」枠に入れないけど、いいもん!そして、ありがとう

 

フェミ登山部(ふぇみとざんぶ)
2022年春から活動を始めた、月1ペースで主に関西近郊の山を巡る(時々遠出もする)、トランスやクィア、シスとヘテロも参加する多様なフェミニストたちのコレクティブ。トランス差別をはじめとしたあらゆる差別に反対し、自身の特権性に向き合いながら学ぶ姿勢を持つ20代から70代までの幅広い年齢、そして様々な経験を持つフェミニストたちが参加している。