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2025/1/15
「フェミ登山部」とは、主に関西近郊の山を巡ったり、ときどき遠くの山に登ったりもする、トランスやクィア、シスとヘテロも参加する多様なフェミニストたちのコレクティブ。メンバーたちが山を登りながら、ときに下りたあと考えたあれこれを、リレー形式で連載します。第18回は、のぴこさんが、山だけじゃないけど山がつないだ、社会運動としてのフェミ登山部について語ってくれました。
フェミ登山部で初めて登山に参加したのは、40歳になる直前で、かつ出産した3か月後だった。それから1年半余り。自分がまだフェミ登山部に参加して、月一回の山行きを続けられていることが正直、不思議でならない。
<年齢への焦り、当時>
40歳を迎えることに、大きな焦りを感じていた。何かを達成しているべきなのに、まだ何も達成されていないという漠然とした焦燥感のような、じれったさのようなものが混在していた。
その一つに、子を産み育てるということがあった。自分の中にある、子どもを産み育ててみたいなという欲には気づいていたが、積極的に人と話してこなかった話題でもあった。
自己流の妊活も試した後、重い腰をあげて不妊治療を行うクリニックに通うことに決めた。が、たくさんの検査やスケジュール管理、変化する体調、持ち前の怠惰も相まって、簡単には進まなかった。
子がいるにしてもいないにしても、40歳を超えた私の人生はどんなものになるのか想像できず、戸惑うばかりであった。
パンデミックで、人に会えない中、自棄(やけ)に消費的になり、1人で片道1時間半の京都に出かけてホテル泊して、高級グルメを巡ってみたりなどした。その極みとも言うべきか、39歳の誕生日に10万円のクロスバイクと5万円のスマートウォッチを購入して、自転車でビワイチ(琵琶湖一周)を企画していた。ちょうどその時に、妊娠が分かったのだった。
<フェミ登山部との出会い>
フェミ登山部のことを知ったのは、ちょうど妊娠後期に入った頃。私にとって登山と言えば、何より体力がいる行為で得意とは言い難い。けれど「フェミ」という点に反応して、出産して落ち着いたら参加してみたいなとポジティブな印象を持った記憶がある。
無事出産し、産育休を楽しんでいた頃、京都大学の吉田寮に遊びにいった。その場で出会った人と話していると、エトセトラ VOL.9(特集:No More女人禁制!)が話題に上がり、その目の前の人がフェミ登山部の一人だということが分かった。
数週間後に新緑の京都の川沿いを歩くという企画があるとのこと。体力的な心配はあったけれどこんな偶然はない!と思い参加を決めた。
当日の第一の感想としては、関西にこんなに多様なフェミニストがおったんや!だった。参加者は20名。下は20代から上は70代まで。事前に送られてきた案内からは、マジョリティ(シスジェンダーで日本語話者)の参加者ばかりではないことが明らかだった。
登山中は、話す時間がたくさんある。時間があるので少し踏み込んだ内容をいろいろと話すきっかけになる。疲れてきて、自分の口数が減って会話が途切れても許される点もありがたい。周りでは元気に話している人がいて、その話を聞いているだけでも考えることが多い。
<山だけじゃない>
登山中の会話だけではなく、フェミ登山部のLINEグループでも裾野の広いアクションやイベントの情報が日常的に飛び交う。普段から、情報を交換し、場を共有し、山に登っておしゃべりをし、問題意識を共有しているから、ここぞという時の瞬発力がある。
今は登山だけがフェミ登山部ではないとわかっている。フェミ登山部のメンバー同士で、時には外の人たちも巻き込みながら有機的に繋がり、いくつもの運動体(?)を作ってきている。
2024.10.7以降のガザ攻撃。虐殺反対、即時停戦、パレスチナ解放の声を上げる行動や企画が頻繁に共有され、その先々でフェミ登山部のメンバーに会う。
最近だと「私のからだデモ」2024.12.13での大阪での行動が、計画され、実行に移されたことが記憶に新しい。
街頭行動だけでなく、行動のきっかけになったオンライン配信をみんなで見ること、その後に感想交流会を持ったこと、集まって街頭行動用のバナーを作成すること、バナーを持って山に登り、お昼休憩中にメッセージの寄せ書きをすること、山に登ってそれらのことを話すこと。当日街頭に出れずとも、事前の準備を一緒に行うこともまた運動なのだ。(「私のからだデモ大阪で作成したバナーは、Body Maintainance Studio Ninaru[寺田町]に展示中です)
登山という行為がこんな風に社会運動やたくさんのフェミニストと再びつながっていく場になるなんて思ってもみなかった。こういう新しい風景が見られるからこそ、私はフェミ登山部を続けてこられているのだろう。
社会運動はデモだけでも、集会だけでも、ない。登山もまた社会運動だ。
フェミ登山部(ふぇみとざんぶ)
2022年春から活動を始めた、月1ペースで主に関西近郊の山を巡る(時々遠出もする)、トランスやクィア、シスとヘテロも参加する多様なフェミニストたちのコレクティブ。トランス差別をはじめとしたあらゆる差別に反対し、自身の特権性に向き合いながら学ぶ姿勢を持つ20代から70代までの幅広い年齢、そして様々な経験を持つフェミニストたちが参加している。
のぴこ
40代、会社員、非婚、モノガミックなヘテロ的出産を経て現在に至る。
大阪市内の部落で小学生までを過ごす。最近は、ジェントリフィケーションが進む釜ヶ崎の近くで小さなコミュニティスペースを友人たちと運営中。
「あの日、山で見た景色」フェミ登山部