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フェミ登山部「あの日、山で見た景色」第14回:そこにいたんだね(HeeJing)

2024/9/15

「フェミ登山部」とは、主に関西近郊の山を巡ったり、ときどき遠くの山に登ったりもする、トランスやクィア、シスとヘテロも参加する多様なフェミニストたちのコレクティブ。メンバーたちが山を登りながら、ときに下りたあと考えたあれこれを、リレー形式で連載します。第14回は、在日朝鮮人三世のHeeJingさんが、登山を「本当の趣味」にできた理由について話してくれました。

 

付属幼稚園に始まり小中高と朝鮮学校に通い、日本社会から常に「政治的な存在」として眼差される中で、クラスメイトとはお笑い芸人の話、アイドルの話をするようなノリで、社会について語ってきた。それが日本の大学に入るやいなや全く通じない。ウケない、続かない、何ならドン引きされる。「うち、政治に興味ないから」とか返される。ふざけんな、選挙権あるなら選挙行け。ただ学生でいるうちは、在日朝鮮人団体内で心ゆくまで語り倒すことができた。問題は会社勤めをするようになってからだ。

先に「社会」へ出た先輩たちはどんどん丸く、しょーもなくなっていく(身バレしたらシバかれそうだが)。そして私も日銭を稼ぐ中で、保身のために、爪も牙も失ってしょーもないやつに成り果てる。

学生時代とは異なり、親しくしたいと思えない相手とでも、それなりに上手く付き合っていかなければならない。ただ礼儀正しく親切にするだけではなく、ちょっとプライベートに踏み込んだ雑談なんかもせねばならない。「無愛想で偏屈」でも許されるような圧倒的な専門スキルを持たない以上は、一緒に仕事していて愉快なヤツにならねばならんのだ。知らんけど。

そうこうしているうちに「休みの日は何してるの?」という問いに構えるようになった。だってこれって、社交辞令的に、無難に時間を過ごすための質問TOP5とかに入るやつでしょ。…とはいえ、ウソで固めて後々突っ込まれるのもダルいので、「(読書会したり、講演会行ったり、所属団体の活動の準備をしたり、)電車で遠出したり、ぼーっとしていることが多いかな。」の後半部分、まあ嘘ではないな、というところを答えると、反応に困られたり、「え、まさか一人で!?」と、「さみしいヤツ」扱いされたりもする。余計なお世話じゃ。だれもかれもバーベキューとか行くと思うなよ。そしてカッコ内の言葉は、伝える相手を相当に選ぶ。本当に時間を割いているのは、圧倒的にそっちなのに。

最近この「趣味欄」に「山登り」が加わった。はじめの急坂にげんなりしつつも、土や草の香り、風の音、頂上で見た空の広さに癒され、帰って熱い湯に浸かり、「行ってよかった」と眠りにつく。実に良い趣味である。だが体育教師を呪いまくっていた私のことだ。きっと、わかりやすい趣味なんかを求めて山に手を出していたら、初回でドロップアウトしていただろう。

続けられているのは、体力が無くても山へ行こうと思えるのは、この山登りが他でもない、「趣味欄にカッコ書きで隠した、本当に時間と気持ちを割いて取り組んでいること」を安心して話せる場だからであり、第7回でいくみさんが書いてくれた「心理的安全性」を、ことばだけでなく実践でも示しているからである。そんな「フェミ登山部」では、あらゆる属性・性の在り方が尊重され、入念な下調べがなされる(ナビの方には毎回、感謝してもしきれない)。足がつった人がいれば、みんなで休憩しながら待つ。急坂におしりをつけて、ズリズリちんたら降りていても急かさない(初参加時にやった)。「迷惑をかけてもいい」と、開始前に言い切ってくれる。そして人任せではなく、場の全員が自分も含めた参加者みんなの在り方を尊重しようと努力し、話に耳を傾ける。

よく生きることを妨げるこの社会、政治、情勢の中で、その価値観に疑問を持ち、傷つきながらも確かにNOを叫んでいる人たちが、ここにはいた。そしてこの社会の価値観、つまりマジョリティ的なものの見方に疑問を持つからこそ、差別の交差性をも考えることができる。自分のことを見つめ直し、他の人の足を踏んでいないか考えられるし、思うことがあれば、臆せずに訴えることもできる(と、声の大きい私は思っている)。

みんな今までどこにいたの? もっと早く出逢いたかったわーなどと思いながら、私も「登山の後は『みんなで』温泉でしょ」なんていうマジョリティ的な考えを改める。国や社会が、政治に疑問を持ち学ぶことを忌避するように仕向け、SNSで呟けば国家権力の走狗みたいなやつに絡まれるこの国で、安心して思いを話せる場を探すことは難しく、ひとりぼっちで耐えているような気分になったりもする。だからこそ、味方がいると思えることはとても大事で、ありがたい。寒い山頂でお湯もスプーンも分けてもらったように、迷惑をかけながら、かけられながら生きていくことが当たり前になる日まで、味方はここにいるよと手を振り続けたい。

 

 

12月の比叡山から覗く空。バッチリ紅葉していた。

時には山上でのごはんメインで登山はライト(?)な山飯会も。

 

フェミ登山部(ふぇみとざんぶ)
2022年春から活動を始めた、月1ペースで主に関西近郊の山を巡る(時々遠出もする)、トランスやクィア、シスとヘテロも参加する多様なフェミニストたちのコレクティブ。トランス差別をはじめとしたあらゆる差別に反対し、自身の特権性に向き合いながら学ぶ姿勢を持つ20代から70代までの幅広い年齢、そして様々な経験を持つフェミニストたちが参加している。

HeeJing
同僚が優秀すぎて辛い在日朝鮮人3世。最近の関心事は性差別的ではない伝統文化の守り方。きらいな家事は洗濯物を畳むこと。