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2024/8/15
「フェミ登山部」とは、主に関西近郊の山を巡ったり、ときどき遠くの山に登ったりもする、トランスやクィア、シスとヘテロも参加する多様なフェミニストたちのコレクティブ。メンバーたちが山を登りながら、ときに下りたあと考えたあれこれを、リレー形式で連載します。第13回は、たかださんが、日常生活ではなかなかできない、だけどフェミ登山部ではできた「年上のおともだち」について話してくれました。
あやみさん(連載第11回に登場)に誘われて初めてフェミ登山部の活動に参加したのが、2023年11月の六甲山だったから、まだそれから1年も経っていないのだと改めて考えると少し驚いてしまう。その時は予想よりも道なき道を歩く場面もあって、冬なのに山道を歩くと暑くて大量に汗をかいて、でも立ち止まるとその汗のせいでとても寒くて、下山後は足首が痛くてペンギンのような歩き方になった。そういう慣れないことの連続だったけれど、しかしフェミ登山部のみんなから置いていかれる感じはまったくしなくて、これからも機会があったら参加しようと思ったのだった。
そういうふうにしてフェミ登山部員となり1年弱、ちょこちょこアウトドア用品を買い足すこのごろだ。まあ雨で山登りの予定が流れることがここ数ヶ月続いたので登山らしい登山は3回くらいしか行けていないんだけれども、山以外でも登山部のみんなにお世話になっている日々である。
フェミ登山部に入る前と入った後で何がいちばん自分にとって変わったか、と考えたのだけれど、「年上のおともだちが増えたこと」のように思う(もしかしたら人生の先輩である彼女たちにとってわたしと交流するのは「おともだち」というより「子供の相手をしている」に近いのかもしれないが、ここはいったんまとめておともだちとさせてください)。
わたしがふだん顔を合わせる人といえば会社の人、学生時代からの友人、スーパーやコンビニの店員さん、あとたまに親くらいなもので、それ以外の人とお話をしたり出かけたりする機会はない。でもフェミ登山部に入ってから、20歳くらい、あるいはそれ以上、年上のひとびとと仕事以外で交流する機会が飛躍的に増えた。
みんな親切かつ、遠慮なく助けを求めたり情報を発信したりできる雰囲気がこの登山部にはあるので(それはセーファースペースを作ろうと意識的に努力してきたメンバーみんなのおかげであることは間違いない)、家にきていいよとかどこかに出かけようとかLINEグループで提案してくださる。わたしは自分に都合のいいお誘いはすべて真に受けることにして、ほいほい「行きまーす」と返事をし、お家にお邪魔してたくさんの果物を食べさせてもらった上にお子さんたちとアナログゲームをしたり、いっしょに博物館に行ったあとお家でパクチー料理をご馳走になってかわいい猫さんと遊ばせてもらったり、車に乗せてもらって楽しい植物園までご一緒したり、している。
フェミ登山部のLINEグループでは、気になるニュースやイベントの情報も飛び交う。そこで教えてもらわなければ、ぼーっと見逃していただろう情報もある。働いたり家族をケアしたりしながら、このように社会や運動とつながっているフェミニストたちがたくさんいるのを見て、変な言い方だけど安心する。
わたしはふだん労働に時間も気持ちも追われて、空いた時間はなにかを取り戻すように消費的に暮らしてしまって、差別やフェミニズムについて誰かと話す時間も学生時代に比べてとても少なくなった。だけどフェミ登山部のメンバーと接していると、自分もいま、あるいは将来、こういうふうに暮らすこともできるんだというロールモデルを見せてもらっているように思う。この文章を書きながらそう思い至って、じんわりと感謝の念が湧いてきた。
「あの日、山で見た景色」という連載タイトルなのに、なんだか山以外でのことばかり書いてしまった。もちろんみんなとおしゃべりしながら(おしゃべりどころではなく息を切らしている時間の方が長いが)山を登り、景色を見てお弁当を食べる時間もとても大切だ。ちょっと最近は酷暑が過ぎるので山に行くのも難しそうだけれど、秋頃にはまたいっしょに山に登れるといい。
フェミ登山部(ふぇみとざんぶ)
2022年春から活動を始めた、月1ペースで主に関西近郊の山を巡る(時々遠出もする)、トランスやクィア、シスとヘテロも参加する多様なフェミニストたちのコレクティブ。トランス差別をはじめとしたあらゆる差別に反対し、自身の特権性に向き合いながら学ぶ姿勢を持つ20代から70代までの幅広い年齢、そして様々な経験を持つフェミニストたちが参加している。
たかだ
大阪の企業で働いている会社員。夜勤かつシフト制なので、山に行く日は休みをとってがんばって早起きする。猫がとても好き。
「あの日、山で見た景色」フェミ登山部