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フェミ登山部「あの日、山で見た景色」第8回:いつもがんばっている私やあなたへ(村上麻衣)

2024/3/14

「フェミ登山部」とは、主に関西近郊の山を巡ったり、ときどき遠くの山に登ったりもする、トランスやクィア、シスとヘテロも参加する多様なフェミニストたちのコレクティブ。メンバーたちが山を登りながら、ときに下りたあと考えたあれこれを、リレー形式で連載します。第8回は、村上麻衣さんによる、どうしても重たくなる荷物、持ち物が多くなったときにどうするかーーという話です。
 

山に持っていくものは意外と多い。

出発の前日に、フェミ登山部のグループラインで共有された持ち物リストを見ながら“必要”と書かれたものを優先的にリュックにつめていく。食べ物や水など当日の朝に入れるものを除いても、けっこうな重量になってしまう。「これにあと食べ物と、水が1.5リットル…」と呟いて、もう少し軽くはできないかとしばらく格闘してみるが、結局ぜんぶ持っていく方がいいんだろうなという結論にいたる。

大学時代に友人たちと山に登ったことは何度かあったけれど、いつも完全に思いつきで行動をしていた。YAMAPやヤマレコなどの便利なアプリもなかった時代。普段着にボロボロのスニーカーを履いて、紙の地図だけを手に、ただの勢いで頂上を目指して突き進む。それでも上までたどり着くことができたし、山を下りるときにも膝の不調を感じることもなかった。あのころはいろいろな意味で身軽だった。

あっという間に20年以上が経過して、もう無理のきかない年齢と身体になっている。初めてフェミ登山部に参加した日―六甲山縦走というちょっとハードな行程のときだった―初対面の人ばかりで緊張もしていたし、いきなり無理な動きをしてびっくりしたのか、次の日に熱が出た。身体はいたって正直だ。

今は平地にいるときでも、ふと気がついたらたくさんのものを背負いこんでしまっている。自ら望んで手に入れたものもあるし、誰かから託されたものもある。持つ必要のないものだって、知らない間に私にとり憑いているものだってあるかもしれない。こまめに整理して手放していけばいいのかもしれないけれど、ものぐさで、人を頼るのが苦手な性分がたたり、いつも抱えきれないあれやこれに埋もれて溺れてしまいそうな自分がいる。

本当はもっと一人で身軽に暮らしていくつもりだった。私の人生にとって父が過労死したという出来事はけっこう大きくて、それ以来「60%の力でがんばらずに生きる」をモットーにしてきたので、千手観音のようにいっぱい手をはやして、いろんなことを同時並行でやらなければ日常が回っていかない事態に陥ることは想定外だった。がんばらなければいけない状況を避け、無理だと思えることには手を出さないようにしていたら、身軽に生きていけると思い込んでいたのだ。

でも、がんばらないために必要なのは、抱えているものを一緒に持って歩いてくれる仲間を見つけることだったんだと今ならわかる。フェミ登山部にはそんな仲間がいる。ときには、持つ必要がないものを抱えてしまっているのにも気づかせてもくれる。仲間が増えれば増えるほど、一人ひとりの負担は軽くなるはずだ。

あれもこれもと抱えていたものを一度手放し、ときには誰かに任せ、私も誰かの荷物を持って、一緒に山を登って降りる。いつもの日常にそんな一コマが加わるだけで、生活はとても豊かになる。

 
金剛山のお地蔵様も #停戦を求めるスイカバトン
 

吾輩は栗である 中身はもうない

 
比叡山 我が家の小さな人たちも共に

 

フェミ登山部(ふぇみとざんぶ)
2022年春から活動を始めた、月1ペースで主に関西近郊の山を巡る(時々遠出もする)、トランスやクィア、シスとヘテロも参加する多様なフェミニストたちのコレクティブ。トランス差別をはじめとしたあらゆる差別に反対し、自身の特権性に向き合いながら学ぶ姿勢を持つ20代から70代までの幅広い年齢、そして様々な経験を持つフェミニストたちが参加している。

 

村上麻衣(むらかみまい)
フェミ登山部に参加するようになって登りたい山や行きたい場所が増えた。
福祉職。アクティビスト。

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