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フェミ登山部「あの日、山で見た景色」第7回:日常と山と心理的安全性(いくみ)

2024/2/15

「フェミ登山部」とは、主に関西近郊の山を巡ったり、ときどき遠くの山に登ったりもする、トランスやクィア、シスとヘテロも参加する多様なフェミニストたちのコレクティブ。メンバーたちが山を登りながら、ときに下りたあと考えたあれこれを、リレー形式で連載します。第7回は、いくみさんが日常における「心理的安全性」を出発点に、フェミ登山部の話をしてくれました。
 

私の周りはほとんどが“普通の日本人”だ。この島国でマジョリティとして何の疑問も持たずに特権を享受し、息をするように弱者を差別する人たち。まわりにフェミニズムについて語れる人間はいない。大人数での会話で、差別的な、ミソジニーな会話を黙って聞き流す毎日。その中で「これなら言えるかな?」くらいを言えたら良い方。

フェミニズムに出会ったのは学生の時で、いま社会人二年目。学生の時は良かった。本を読む時間も読める環境も時間も、たくさんあった。いまフルタイムで働いていて、残業とかはそんなにないけど、それでも時間がない。朝は起きてから家出るまで睡魔と仕事のために出掛ける準備に追われてるし、帰ったら家事と明日の仕事のために今日の仕事のストレスを発散せなあかんやん? で、睡眠も明日の仕事のために十分取らないと。あれ? 時間無くない?

そうして資本主義に飲まれていって、いつの間にか呼吸を忘れている。知らなきゃいけないこと、やりたいこと、たくさんあったはずなのに、現実は仕事と飲酒とSNSに時間を食われて1日が終わる。それが私の日常。

そんな日常の中で、フェミ登山部の空気は私を私に戻してくれる。尊敬できる本当に素敵な方々に会えて安心する。

フェミ登山部の部員全員をよく知っている訳ではないけど、登山部で会う人達はみんな素敵だ。趣味はバラバラ。K-pop好きな人、ゲーム好きな人、きのこが好きな人、昆虫が好きな人、運動が好きな人、苦手な人。年齢も、生まれた国も、育った環境もそれぞれだ。それでも差別に反対する気持ちはみんな持ち合わせてる。自分の立場を客観的に見ることを知っていて、世界を少しでも良いものにしようとしている人達。フェミ登山部で山に登っていると、安心して息ができるな、と感じる。

会社の研修で「職場の心理的安全性を高めましょう」という話があった。心理的安全性とは、オフィスで上司や同僚など誰に何を言ったとしても、人間関係が損なわれたり処罰を受けたりする心配がない状態を指すらしい。心理的安全性が高い職場では良いアイデアが出やすく、結果的に生産性が上がるんだと。クィアな人たちが社会生活をする上でこれを得るのはとても難しい。社会の様々なスタンダードが、クィアな人たちが心理的安全性を得ることを妨げる。

対して、フェミ登山部の活動での心理的安全性は非常に高い。様々なバックグラウンドを持つ人達がいることを前提として、その全てを共有しなくても、それらを考慮して部員達は活動していると思う。その結果、良いアイデアが出続け、月1という高頻度の活動が維持されているのではないか。

山に登ると空は広いと気付く。登山部員と話して見識も広がる。山に行くことは私にとって今や、狭い世界から抜け出す手段の一つになっている。そして、気づいたらいろんな山を登ってきた。それは確かに私の自信になっている。登山部のコミュニティが私に心理的安全性をもたらしてくれるように、マイノリティ性を持った人達が社会で安心して息ができるようにするために、私には何ができるだろう。山に登りながら、これからも考え続ける。

 
山登り後の世界一おいしいビール

 
昔女人禁制だった場所(高雄山神護寺結界内)の綺麗な川

 
六甲山 広い空

 

フェミ登山部(ふぇみとざんぶ)
2022年春から活動を始めた、月1ペースで主に関西近郊の山を巡る(時々遠出もする)、トランスやクィア、シスとヘテロも参加する多様なフェミニストたちのコレクティブ。トランス差別をはじめとしたあらゆる差別に反対し、自身の特権性に向き合いながら学ぶ姿勢を持つ20代から70代までの幅広い年齢、そして様々な経験を持つフェミニストたちが参加している。

 

いくみ
市井のフェミニスト。医療従事者。シーシャとお酒と辛いものが好き。

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