性教育を搭載する

第2回 「意図しない妊娠」の責任を女性に負わせる権力者たち

2020/8/31

性教育を広める医師ユニット「アクロストン」が、性教育にまつわる諸問題について日々の話題から考える連載です。正しい性の知識が全然足りていないこの社会、なにが原因か、どうすればいいのか、性教育の現場から語ります!

 

7月29日の朝。週1回勤務している病院へ向かう高速バスの中でツイッターを眺めていたら、ある投稿を見てガックリきました。NHK「おはよう日本」で特集された緊急避妊薬についての日本産婦人科医会副会長である前田津記夫さんのコメント。

「日本では若い女性に対する性教育 避妊も含めてちゃんとした教育してあげられる場があまりに少ない」
「緊急避妊薬が容易に手に入りすぎてしまうと じゃあ次も使えばいいや、という安易な考えに流れてしまうことを心配している」

緊急避妊薬はその名の通り、「意図しない妊娠」の可能性がある時に緊急に服用して避妊できる薬剤です。避妊の効果は時間とともに減少していき、25~48時間以内は85%、49~72時間以内では58%となります。
現在の制度では産婦人科受診が必要であり、オンライン受診をしたとしても薬剤を手に入れるまでには時間がかかります。だからこそ、産婦人科受診が必要という現行制度を改定して、緊急避妊薬を薬局で買えるように(OTC化)する必要があります。

緊急避妊薬のOTC化に反対している前田さんのは、若い女性に「性教育をしてあげられる場が少ない」から「じゃあ次も使えばいいや」とセックスの時にちゃんと避妊をせず、緊急避妊薬をドンドン使うようになることを危惧しているようです。
海外では、76ヵ国で医師の処方箋なしに薬局で薬剤師の説明を受けた上で購入ができ、19か国で直接購入できます。これら95か国で前田さんの危惧しているような事態が起きているとは、とても思えません。

そもそも日本の性教育不足は、国の方針によるもの。私たちは国に性教育を受ける権利を取り上げられているのが現状なのに、なんで女性が自分自身でバースコントロールする権利まで取り上げられないといけないのでしょうか。

「意図しない妊娠」は女性1人では成立しません。
セックスをする際には誰もが確かな知識を持ち、女性と男性の場合は避妊方法について事前に確認しあうことが必要ですが、避妊方法についての実践的な知識もコンドームの使い方の練習も、性的同意も学校では扱いません。

また、女性がコンドームを付けてほしいと伝えても付けない、あるいは勝手に外す行為は性暴力です。レイプにあった場合、思い出して説明するという大きな負担や恐怖心などで警察や病院に行けないこともあります。
このように、「意図しない妊娠」の背景には性教育の不足や性暴力など、社会問題が潜んでいることも多いです。私たちは緊急避妊薬が容易に手に入らない現状は、「意図しない妊娠」の責任を女性1人に押し付けていることだと考えています。

また「ちゃんと性教育してあげられる」という言葉にも違和感を覚えました。
「してあげる」というのは、完全に上から目線です。もともと医師の患者への上から目線でのパターナリズムは性別に限らずよく耳にするもので同業者として本当に辟易しているのですが、特に若い女性に対してはひどいです。

実はこの「意図しない妊娠」を女性1人に押し付ける主張は性教育界隈でも目にすることがあります。

性教育界の大御所に北村邦夫さんという産婦人科医がいます。この方、性教育関連の功績は本当にすごいです。30年以上クリニックで婦人科診療に携わり、日本家族計画協会という「全国どこでも、誰でも、リプロダクティブヘルスのサービスが受けられる社会を実現する」(ホームページより)ことを目標としている団体の理事長で、性教育関連の情報の発信や指導者養成など、たくさんの事業を展開なさっています。
また低用量ピルや緊急避妊薬の普及にも尽力なさっており、北村さんも緊急避妊薬のOTC化賛成派です。ですが、残念なことに北村さんの主張に私たちはたびたび違和感を感じています。

北村さんのクリニックのホームページには性に関するトピックがたくさん書かれています。まずは緊急避妊薬の項目を見てみましょう。

「もし、万が一レイプに遭ったり、妊娠したかもしれないと思うようなセックスをした場合やコンドームが破けたりした場合、緊急避妊法という方法もあるので、産婦人科医に相談して欲しい。ただし、絶対に連用は避けること」
(https://www.jfpa-clinic.org/msg/hebe.php より)

緊急避妊薬のことは中学校や高校で教わる機会はまずないため、その存在を説明することは大切です。
また現状では産婦人科を受診するしか手に入れる手段はありません。また日本家族計画協会では緊急避妊薬を手に入れられる施設の検索システムも構築しており、大変使いやすいです。

しかし、この後にこんな文章が続きます。

「性感染症予防としてコンドーム、望まない妊娠をしないためにはピルを正しく使おう。すべての女性には、自分自身の体のこと、人生のこと、冷静に見つめる分別を持ってほしい」
(https://www.jfpa-clinic.org/msg/hebe.php より)

「分別を持ってほしい」とはどういう意味なのでしょうか。なんだか性感染症や妊娠は女性に責任がある、と書かれているように私は感じました。

他にも「中絶を選択された方へ」という項目ではこんなことが書かれています。

「中絶は確かに望ましいことではないけれど、決めたからには後悔したり、自分を責めることはやめよう。人生は失敗の繰り返しなんだから、それをバネに前へと突き進む勇気が必要だ」
(https://www.jfpa-clinic.org/msg/bort.phpより)

やたら力強いメッセージですね。中絶を「失敗」と断定していることが気になりますし、心身ともに負担がかかる中絶した方に対してこの少年漫画の世界観のような声掛けが適切なのか甚だ疑問です。

この文章の後、さらにこう続いています。

一番心配なのは、十分な納得と合意のもとに中絶ができるかどうかだ。「産みたかったのに産めなかった」では悔やまれて仕方がないだろう。今自分の置かれている環境や立場を考えたら、これがベストの選択といえるような中絶であるように。そして中絶の選択をしたあなたに対して、彼がよき理解者としてあなたを励まし続けられるパートナーであることを信じたい。
(https://www.jfpa-clinic.org/msg/bort.phpより)

たしかに生物学的に妊娠しているのは女性ですが、妊娠したことの責任は男性にも同等にあるはずです。それがまるで女性個人に責任があるかのような言い方であり、男性は「よき理解者」の立場ではあるけれども当事者では無いみたいです。
そもそも貧困、学業や就業が困難になることなどの理由で中絶を選択する人、性暴力の結果妊娠し中絶する人もいます。これらは女性個人の責任ではなく、社会構造や加害者に責任があります。

このように緊急避妊薬のOTC化反対派も賛成派も、妊娠の責任を女性個人に負わせようとする人が(しかも影響力の大きい人が)おり、暗い気持ちになります。
「迷える若い女性たちのために僕たちが決めてあげよう」というパターナリズム的な態度は本当にやめて欲しいし、共に社会に生きているメンバーとして、専門的な意見を述べていただきたいです。

緊急避妊薬を取り巻く現状が暗いものだけかと言うとそんなことはありません。

「意図しない妊娠」を女性個人に責任を負わせず、社会を変えようとするプロジェクトが存在します。
それは遠見才希子さん(産婦人科医。冒頭のおはよう日本にも出演していました)、福田和子さん(日本のセクシュアルヘルスを変える「#なんでないのプロジェクト」代表)、染谷明日香さん(性教育団体ピルコン代表)が共同ですすめている「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」。
このプロジェクトは「女性が健康を守るために、安心して、適切かつ安全に緊急避妊薬にアクセスできる社会の実現を目指す」ことを目的として国に働き掛けています。

緊急避妊薬が必要な時すぐに手に入らない現状は、「意図しない妊娠」の責任を女性1人に押し付けていることだと私たちは考えています。「意図しない妊娠」の背景には、文中でも述べたように社会全体で変えていかなければならない問題が存在します。
「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」では国や関連機関へ提出する署名活動をしています。緊急避妊薬のことを「自分事」として考え、社会を変える一歩として、署名やこの情報を共有していただけると嬉しいです。

オンライン署名はこちら
https://kinkyuhinin.jp/advocacy/#advocacy01

緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクトWEBサイト
https://kinkyuhinin.jp/

アクロストン
妻のみさとは産業医、夫のたかおは病理医として勤めながら、2018年に性教育を広げる「アクロストン」としての活動をスタート。公立小学校の授業や、企業イベントなど、日本各地で性にまつわるワークショップを行う。著書に『赤ちゃんってどうやってできるの? いま、子どもに伝えたい性のQ&A』(主婦の友社)がある。
https://note.com/acrosstone